Appoggio vol.19 2010 summer
今、話題の任意売却。
任意売却で住宅ローン破綻から
債務者を救済できるのか
1979年生まれ。2001年日本大学商学部卒業後、不動産賃貸会社に入社。5年間店長として賃貸管理業、賃貸仲介業を行う。
2007年2月、住宅ローンの支払いに苦しむ債務者を対象に、任意売却を専門とした不動産会社、株式会社シナジー・マネージメントを設立。年間300件以上の債務者からの相談を扱っている。リーマンショック後の不況で住宅ローン破綻が急増する中、相談者の様々な事情や希望を尊重する、きめ細やかなコンサルティング手法と債権者との交渉におけるバイタリティあふれる行動力は高い評価を得ている。2009年にはフジテレビの情報番組「サキヨミ」で大々的に取り上げられ、債務者のために奮闘する姿が一躍脚光を浴びた。相続支援ネット 四谷エリア。
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年間7万件を超す競売物件。それは、住宅ローン破綻の行く末は競売であるが、その競売から救済と破綻からの救済が任意売却。今、不動産業界の話題となっている任意売却を仕事として活躍する女性起業家の仕事は凄い。その仕事の中身について高橋愛子氏の仕事ぶりを探った。
江里口 FP向け任意売却セミナー、お疲れさまでした。
高橋 お世話になりました。セミナー後、参加されたFPの方が当社を訪ねてこられたんですよ。債務相談もやっているので、任意売却も詳しく知りたいと。
江里口 FPは住宅ローン関係の相談が柱の一つですから、任意売却できるケースもあるでしょうね。これからはFPとの提携も増えるかもしれません。
江里口 そもそも高橋さんの任意売却との出会いというのは?
高橋 大学を出て不動産賃貸業の会社に入ったのがきっかけということになるでしょうか。
江里口 なぜ不動産賃貸業に?
高橋 単純な理由です。女性でも力を発揮できそうだと思ったから。不動産賃貸業なら、性別、年齢、経験に関係なく思いっきり働いて稼げる業界だと思って就職しました。
江里口 なぜ不動産賃貸業が稼げると思ったのですか?
高橋 求人を見て。「性別、学歴関係なく実力主義。歩合給で高歩合」と書いてありました。大卒で大手企業に入っても月給20万ぐらいがせいぜいでしょう。自分の力で稼いだ分だけ歩合でもらえるのが魅力的だと感じました。それに、「家=住」は生活の基盤。衣食住という絶対に必要なことに関係する職に就きたいという思いもありました。
江里口 実際に入ってみてどうでしたか?
高橋 歩合給はそれほど稼げませんでした。私の入った会社は営業マンの入れ替わりが激しくて、半年後に主任、1年後には店を1つ任されてわけがわからないまま店長です。だから自分の歩合だけ考えてはいられなくなりました。しかも、男社会で、すぐに辞めてしまうような人たちばかり。
江里口 コンプラのコの字もないような。
高橋 まったくないです。
江里口 そう思われているのだけど、実は不動産業界というのはコンプラの歴史が長くて、システム化されているんです。宅建業法に基づいた重要事項説明もしっかりしているでしょう。だから誰でも務まる、誰を営業マンで雇っても間違いを起こさない。それは完璧にシステムができあがっているから。それに比べると、生保業界は重要事項説明ができてまだ10年も経っていない。今年の3月に保険業法が大幅に改正されて、やっと宅建業法並みになりました。だけど、世の中は金融業界がそんないい加減であるはずがないと思っていて、そんなことはまったく知らない。
高橋 そう言われてみるとそうですね。
江里口 いまだにコンプラができていない業界がまだ一つ残っている。
高橋 どこですか? 金融関係?
江里口 銀行。みんな消費者金融やヤミ金にコンプラがないのは当たり前だと思っているけど、銀行だって同じですよ。お金を借りるとき金銭消費貸借契約書を作りますが、あれは1通しかない。借り手が印紙代を支払っているのに渡さない。「ここに署名・捺印してください」で30秒で終了です。契約にあたって期限の利益の説明もない。つまり、6カ月滞納したら競売になりますよという説明もしていないわけです。
高橋 説明もしない?
江里口 任意売却は、それの後始末なわけです。話を戻しますが、高橋さんが任意売却を知ったのは?
高橋 自宅が競売になったお客さんが、引越し先の賃貸物件を探しに店に来たのがきっかけでした。全く知らなかったので、競売ってなんだろうと勉強しました。勉強している中で、競売を回避するのに任意売却という方法があると知りました。賃貸業に入って6年くらいたって、そろそろ違うことをやってみたいなと思い始めた時期でした。たまたま知人が関西で任意売却をやっていたこともあって、「これだ!」と思いました。自宅が競売になって困っている人を相手に、競売を取り下げて稼ぐビジネスなんてすごく面白そうだなと。
江里口 どうやって実務を覚えたのですか?
高橋 任意売却をやっている会社を訪ねて教えてもらいました。私は賃貸業界でしたから、任意売却どころか売買もやったことがない。何もかも初めてで、今思うと本当にレベルが低くて恥ずかしいです。
江里口 それで会社を設立したんですか?
高橋 しました。何もわからない状態でも、任意売却専門でやるぞと決めていました。前の会社の管理の物件とお客さんを持って独立したので、賃貸管理をやりながらですが。
江里口 お客さんを持っていくのをよく会社が許してくれましたね。
高橋 私でなければダメだというお客さんだけですよ。元付けの大家さんや賃貸を探す法人のお客さんの中には、店というより私についてくれている方もいましたから。
江里口 高橋さんが抜ければ、どっちみち、よそへ行ってしまうわけですからね。独立時に賃貸管理業の収入がベースにあったのですね。
高橋 任意売却は長期戦です。受けてすぐに手数料が入るわけではないので、最初は賃貸の売り上げで経費を稼ぎ、生計を立てていました。一方で、任意売却ビジネスのほうは、競売になった人の家を1軒1軒訪ねていくというやり方をしていました。
江里口 裁判所に行って名簿を入手して、アポなしでアプローチしていくわけですね。1号案件はどうやって見つけましたか?
高橋 裁判書のリストで直撃です。マンションでした。夜でないと家にいないので、夜の9時、10時にピンポンと行くわけです。
江里口 第一声はなんというんですか?
高橋 出てきてくれないこともありますが、ピンポンと押して出たら、社名を言って、「裁判書でお宅が競売になると出ているのですが、ご存知ですか」と。中には競売になると知らない人もいます。知っていても怒っていて逆切れとか。でも、一度ドアを開けてもらったらもう絶対に閉めさせない。ドアが開くことが奇跡ですからね。
江里口 どこで習ったんですか。不動産・住宅業界では、ドアが開いたら左足を入れろと、マニュアルに書いてあるんですよ。
高橋 そうなんですか? 習ったわけではありませんが、1日に何件も回って、いなかったり、居留守を使われたり、ドア越しに帰ってと叫ばれたり。そんなかで自然と身に付いたと思います。
江里口 競売物件は、東京地裁で1日にどれくらいの数が出るのですか。
高橋 日によって違いますが、10件くらい。1カ月にすると200〜300件。
江里口 それを軒並み訪問していくわけですね。歩留まりは?
高橋 専任媒介が取れるのが1%くらい、その中で実際に売買までいくのは月に1〜2件です。会って話しても理解できない人もいますからね。営業マンを5人ぐらい雇っていたので、効率が悪くて1年目は大赤字。経営面でも、独立当初の共同経営者とは方針が合わず退いてもらいました。2年目から縮小して再出発。営業のやり方も、直撃をやめて、DMやインターネットにしました。DMがわかる人でなければ行っても無駄ですから。
江里口 任意売却ビジネスのやりがいは?
高橋 やりがいはすごく感じています。競売になるような物件ですから、もともとの住宅ローンだけでなく、国税や住民税の差し押さえも含めて債権者がたくさん付いています。それを一つ一つ全部ほどいていって抹消処理の準備ができて、決済して「ハイ終わり」というとき、本当に嬉しいです。債務者さんも「ありがとうございました。高橋さんに会えてよかった」、「眠れなかったのが高橋さんに会って眠れるようになりました」なんて言ってくれますし。この仕事をしていて良かったと心底思います。法律のことも不動産や金融のことも、みんな知らないからどんどん追い込まれてしまう。でも「大丈夫なんですよ。こうなった以上仕方がないのだから前を向いていきましょう」と言ってあげるだけで、結構明るくなったりもします。
江里口 任意売却=自己破産ではないわけでしょう。
高橋 ですが、残債は残ります。自己破産について説明してあげて、それほどリスクがないとわかると、最終的に自己破産を選んで楽になっていく人もいます。破産するまでの決断はできなくても、日々の借金苦から開放されただけで精神的に変わっていくものです。みんな住宅ローンだけは何としても返さなくてはと必死になっているのですが、それはおかしい。住宅ローンを払うために借金をするなんて間違っていると思います。そもそも「マイホーム」といいますが、それは住宅ローンを完済して自分のものになった後のこと。
江里口 だけど、世の中の与信というのは違う。持ち家かどうか、不動産所有が問われるだけで、それに対して債務があっても関係ない。3000万円で買って残債が2800万あるのに、市場では1500万でも売れない物件は明らかに債務超過です。そういう状態のほうが賃貸に住んでいるよりも与信があるというのは世の中の仕組みがおかしい。金融界の与信の考え方そのものが問題なのですね。これも金融界が大衆をだましているんですよ。
江里口 最初にマスコミ取材を受けたのはいつですか?
高橋 昨年6月にフジテレビの『サキヨミ』に出たのが第一弾です。放映は15分くらいでしたが、その3カ月くらい前から密着取材でスタッフが事務所に張り付いていてカメラが回っていました。お客さんの取材許可が取れた案件は少なかったですけど。
江里口 テレビがスタートだったのですね。雑誌は?
高橋 雑誌は『週刊現代』が最初でした。『サキヨミ』が放映されて、各マスコミがいきなり任意売却にガーっと飛びついてきたんです。取材がすごかったですね。NHK、TBS、日本テレビ、ほとんどの局が来ました。
江里口 社名と名前が出たら電話が殺到したでしょう。
高橋 『サキヨミ』の翌日は電話が鳴り止みませんでした。テレビに出たというだけで信用してくれるのですから、すごい効果ですね。でも、確かにそのときは来ましたけど、いまはすっかり落ち着いてしまいました。全国からきても効率も悪いですし。
江里口 任意売却ビジネスはこれからでしょう。
高橋 6月18日に改正貸金業法が施行されてキャッシングなどに総量規制が入るので、それで詰まる人や、夏のボーナスが出なくてローン返済ができない人も出てくるのではないでしょうか。
江里口 競売物件というのは年間どれくらい出るのですか?
高橋 リーマンショック後に急増していて、昨年は年間7万件くらいです。大半が戸建て住宅とマンションなので、住宅ローン破綻ですね。
江里口 すごい数ですね。最近は減っているものの、従来、マイホーム用の年間住宅着工件数が60万戸程度だったことから考えると、約1割が競売になっている計算になります。任意売却はこれから成長産業ですね。今後の抱負は?
高橋 なるべく早い段階で相談にきてほしい。住宅ローン返済を滞納する前に相談してもらえれば、いくらでもやり方はあります。銀行にリスケジュールの相談をしたり、色々な解決法が考えられます。住宅ローンが返せないからといって、人生終わりではありません。苦しくて借金をして住宅ローンを返すくらいなら滞納した方がいいというのが正直な私の気持ちです。当社としては滞納して任意売却にもっていければありがたいのですが、任意売却も含めてその人にとっていちばんいい方法を提案したいと考えています。苦しいと思ったら、早めに相談にきてほしい。そのためにも、これから積極的にPRして、困っている人たちに当社の任意売却カウンセリングルームの存在を知ってほしいと思っています。
江里口 現場の興味深いお話をありがとうございました。任意売却ビジネスの今後が楽しみですね。
任意売却ってご存知ですか?高橋 愛子 (著)
独立開業の専門セミナーが今ブームとなっている
文部省文部事務官を経て、1985年に日本初の独立系FP会社、株式会社エムエムアイに入社。その後同社の取締役に就任。
1992年10月、株式会社エフピー研究所を設立、代表取締役に就任。
独立系FP会社として、個人のライフプラン相談を受けることはもちろん、企業の従業員や公務員を対象とするライフプラン教育の実施、企業向けおよびFP向けの業務用FPソフトウェアやウェブシステムの開発など、幅広いFPビジネスを手がけている。日本ファイナンシャル・プランナーズ協会の認定教育機関として、FP資格者の知識・スキル向上のための教育や独立開業支援など実務講座にも注力。
時代のニーズをつかみとる抜群の営業センスを持ち、金融機関や税理士事務所などの後ろ盾なしにFP業務をビジネスとして確立した数少ない成功者である。
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FP業界の教育会社としての老舗であるエフピー研究所の活躍が期待される。
独立開業の教育セミナーを早くから手掛ける石田英憲氏のFP会社経営のスキルと
今後のFP業界への期待をインタビュー。
――最近、FPの間で独立に対する関心が高まっているように感じます。FP研究所でも独立開業講座をやっておられますね。
石田 『FPビジネスチャレンジプログラム』という独立開業講座を始めたのは2003年でした。10年ほど前、一時期FPの資格ブームがあって、独立したいという人も増えました。当時、不景気で金融機関がつぶれたりしましたから、金融業界出身でFP資格を活かして独立を考える人が多かった。金融機関では売る商品が決まっていて、中立公正にはできないというストレスを感じています。独立して中立公正なアドバイスができ、しかも何がしかの収入が得られるのであれば理想的です。独立FPの先輩としてそのニーズに応えたいと思いました。
――どのようなカリキュラムですか?
石田 トータル72時間、土曜日まる1日を12日間で、3カ月コースでした。受講料は35万円程度でしたが、1回10名前後集まっていました。話すスキルと書くスキルとコンサルティングスキル、この3つを徹底的に身に付けてもらいます。現在の『プロフェッショナルFP養成講座』はそれを4日間にコンパクトに凝縮して、受講料も割引適用で10万円程度と手頃な設定にしています。時代の流れに合わせた形ですね。
――具体的にはどのようなことをやるのですか?
石田 特徴があるのは話すスキルです。始めた当時は401kの投資教育で大量に講師の仕事がありました。ボリュームのある仕事なので、初心者にはちょうどよかったのです。ただし、必ずオーディションがあり、相当スキルがないと合格できない。401kの講師に合格することを前提に、ビデオを撮ってチェックしながらトレーニングしました。最初はずぶの素人で手が震えるような状態だった人が、講座が終わる頃には「もっと話させて」というくらいに変わっていきます。人前で話せるというのは、FPとして自分を売るには不可欠なスキルです。話すだけでなく、パワーポイントの作り方から教えて、使いながらプレゼンできるようにします。
――コンサルティングスキルはどのようなことを?
石田 受講生同士がお客様役とFP役になって、いろいろなバリエーションの場面を設定してロールプレイングをします。それを他の受講生がみんなで評価する形で、徹底的にやりました。実務に即した内容です。当社はいくつかの大手企業で個別相談をやっていて、コンサルティング要員としてFPを送り込んでいます。コンサルティング実務のレベルアップは切実な問題でした。企業側にもFPがいて厳しいスキルチェックがありますから。特にメーカーではクォリティを標準化してほしいと言われますね。
――それは難しいニーズですね
石田 当社では、自社開発のソフト『FP名人』を使ってアドバイスをすることを基本としています。提案書もきちんと出します。企業側にとってはそれが大きな安心感になる。実際、誰がやっても7割がた同じ結果が出ますよ。
――『FP名人』はFPソフトのベストセラーですね。
石田 1996年発売で、いまバージョン14です。今ではほとんどライバルなしの状態です。価格は5万円弱ですが、これだけ投資するとなるとユーザーは限られますから、市場はそれほど大きくありません。個人FP向けの業務用ソフトがほとんど消えてしまったのも仕方ないでしょう。当社は、金融機関からのFPソフトの受託開発の仕事をしていますから、そちらと合わせて続けてくることができました。
――独立FPのマーケットをどうみておられますか?
石田 資格ブームでいったん独立FPが増えた後、また金融機関に戻った人もかなりいます。金融機関が投信や変額年金の販売のために大量に人を採用しましたから。独立FPではそれほどの収入は得られません。年収300万円以上稼いでいる人は相当少ないと思います。何をもってFPというかという問題もありますが、FPのビジネスモデルは残念ながらまだ確立できていません。当然コンサルフィーだけでは食べられませんから、コンサル後の保険販売のコミッションも含めて収入を得ていくことになります。では、保険の販売員と何が違うかというと、売り方とコンサルのやり方が違うだけ。結果、やっていることはさして変わらない。保険主体の人や、不動産出身であれば不動産のコミッションが主体という人が多いのではないでしょうか。FPコンサルティングの本業の部分はまだまだです。
――年収300万の壁、厳しいですね。
石田 ただ、私はこれから変わりそうな手ごたえを感じています。世の中が不景気で、サラリーマンの手取り収入が減っているいま、大手企業が従業員にライフプランニング、マネーコントロールの教育をしたいという需要はすごくあります。当社のように名実ともに企業組織であるFP会社はほとんどありませんし、対企業で実績のある会社も少ないですから、びっくりするような大手企業や官公庁からもお話をいただいています。
――企業にニーズがあるということですね。
石田 FPが保険販売などと根底で違うのは、ライフプランの中でキャッシュフローを意識することです。そこをちゃんと見てあげられるかどうかが、FPとそのほかのコンサルタントとの違い。そこに尽きると私は思います。サラリーマンは入ってくるものが決まっていますから、その中でどうやりくりするかしか手立てはありません。キャッシュフローを意識することがすごく重要な時代に入ってきています。そこにフォーカスして、企業の人事にアプローチしていくと、その通りだということで話が進んでいきます。特に金融機関や大手企業では、隠れ負債を持ちながら日々生活している従業員がいるのは、非常に怖い。それをチェックする意味も含めて、こういう従業員向けライフプラン教育のニーズは潜在的にあると思いますよ。FP業界でも気づいている人は少ないと思いますが。
――そもそも石田社長がFP業界に入られたきっかけは?
石田 文部省に8年勤めていましたが、もともと株式投資が大好きで、個人的にはずっと金融の勉強をしていました。いずれ金融知識を活かせればいいなと思っていたときに、日本で初めてFP会社を創った井畑さんに出会いました。井畑さんが日本FP協会を立ち上げたときも、その渦中で見てきました。
――FP業界の創成期から、業界にいらっしゃったのですね。FP研究所を設立された経緯は?
石田 1992年、井畑さんの会社からのれんわけのような形で、FP研究所を設立しました。最初に収益の柱になったのは、金融機関向けのソフト開発でした。当時、損害保険会社が初めて年金商品を発売するということで、代理店の支援ソフトを欲しがっているという話を聞いたんです。それでソフトのプレゼンに行ったところ、うまくいって受注できました。それが業界誌で話題になり、他の損保や生保からもバタバタとシステムの仕事がきました。最初の10年はほとんどシステム会社の状況でしたね。
――90年代後半には、生保の営業マンがノートPCに提案ソフトを入れて持ち歩いていましたね。バイスはしますけど。最後は自分で殻を破っていかないと本物にはなれない。
――その点、石田社長はすばらしい営業力をお持ちですね。
石田 私は公務員だったので営業経験はまったくなかったのですが、民間に出てみたら営業はずば抜けて得意だとわかりました。これは業界の中でも圧倒的に強みです。FPのスキルではなくて営業で生き残ってきたといえるかもしれません。最終的には、当社が企業におけるライフプラン教育という大きな市場をとって、独立FPのみなさんに安定的に仕事を供給できるようにしたいと考えています。
――今後の計画は?
石田 企業サイドには確実に需要があります。以前は退職者とか年配者対象の研修が多かったのですが、当社は新入社員や入社5年目くらいまでの若年層を対象にやりましょうと提案しています。昨年度から始めたある企業では、財形貯蓄の加入率が導入前の30%から昨年は70%、今年は80%にまで上がりました。金額も7000円から21000円、25000円と増えています。若い人たちには、「独身のと
石田 98年ごろ損保系生保が立ち上がったときがピークでした。ちょうど『保険物語』を試作版で作っていたのが当たって、2社からオファーをいただきました。大きなシステムだったので結構トラブルも多くて、システム開発担当は半年ぐらい会社に泊まりこみ状態。発注側もわからないままやっていますから、仕様もころころ変わるし、すごく大変な思いをしました。そこから、システムもほどほどにしようということで、今のような研修ビジネスに業態を変えてきました。いま当社は相当な数の企業向けライフプラン教育を引き受けていて、私も年間150日くらい講師をしています。
――独立FPの今後はどうでしょう?
石田 FPに対する潜在需要は把握していますから、これからチャンスはあると思います。ただ、独立するにあたって、保険など収入のベースがある人のほうがいいかもしれませんね。そこから転換して、時代に合わせて徐々にウェイトを変えていくというのが現実的で、スタートは切りやすいでしょう。
――石田社長からみて、今の独立FPはどうですか?
石田 金融機関を辞めてFPになりたいという方はどちらかというと営業力が弱い、クロージング力が弱い傾向があります。正直なところ、営業だけはなかなか教育しきれない。よく言われることですが、自分の強みをしっかり確認することだと思います。自分という人間を売っているわけですから、強みを自覚できるかどうかがポイントですね。話の中で、その人の何が魅力的なのか気づかせてあげようとアドきしか貯められないのだからどんどん貯蓄しなさい」と言っています。貯蓄のクセをつけることが大事ですからね。保険もお姉さま方の餌食にならないように、グループ保険、団体保険で200万〜300万入っておけばいいのだと教えます。そうすれば、そこで無駄なお金が出て行かないので貯金に回せます。若年層への教育は非常に効果的で、企業の人事からも喜ばれています。
――導入企業が増えてくれば、他社との競合もあるのでは?
石田 今のところはないですね。大手企業が狙っているとも聞きますし、いずれは参入企業もでてくるでしょう。しかし、当社はFPソフトウェアのシステムを持っているのが強みです。この分野のビジネスにはコンサルとシステムの両方が必要ですから、当面は勝てると思っています。
――独立FP事務所に行列ができるようになるのはいつ頃でしょうか。
石田 もう少しかかるのではないですか。一つ気づいていることがあります。お金のことをFPに相談するか金融機関に頼るか、40歳前後が分かれ目なのです。退職金の相談をとりたいと狙っているFPが多いですが、現実には難しい。FPのほうが丁寧にコンサルをやっているはずなのに、結局、銀行からすすめられた商品を購入してしまう。それが40歳前の人なら、FPのほうを信用してくれます。ただ、30代以下の人はまだそれほどお金を持っていませんから、ビジネスとしては厳しい。10年、20年経つと変わってきますよ。長いスパンではすごく有望だと思います。
――すると、独立FPの開業は2020年以降がお奨めということですか。
石田 顧客開拓には時間がかかりますから、いまから5年、10年辛抱できれば花開くチャンスは必ずくる。その間のご本人のライフプランとマネーコントロールをどうするかというところをしっかり考えなくてはいけませんが、賢くやれば独立できると思います。
――将来の展開としては?
石田 中国をターゲットにしています。中国には地域ごとに複数のFP団体があり、経済発展の状況も様々。すごく難しいとは思いますが、逆にダイナミックな展開ができるのは中国しかない。当社はFPが強みなのでとっかかりはそこですが、FPだけではなく、広く金融全般に関して日本にあって中国にないものを、資格も含めて中国に持って行きたいと考えています。たとえば通信教育という概念が中国にはない。これも有望だと思います。既に日本の教育関連企業も進出していますが、単に社命で行けと言われたからという意識ではできないでしょう。ここはトップセールスでやるしかない。ルーティンの仕事は社員に任せて、これからはセミナー講師と中国ビジネスが私の仕事だと思っています。
――その事業拡大のパワーはどこから生まれるのでしょう?
石田 好きなことをやっているからではないでしょうか。約25年ずっと、ぶれずにFP業界でやってきました。皆さん苦戦しているだけに、このビジネスは面白いですよ。私の手でビジネスモデルを創りたいと思っています。
――今後、FPのニーズがどんどん顕在化してきたときは、どういう体制で受けていかれますか?
石田 FPとはパートナー制度をとるつもりです。業務自体は当社の責任でやりたいので、従業員を増やして事業規模を拡大するでしょうね。今はまったく考えていませんが、拡大路線が見えてくるとしたら、株式公開してきっちり会社としてゴーイングコンサーンできる道を選びたい。それが社会的責任だと考えていますし、業界のためにもなると思います。
――そうなれば、FP研究所が本来のFP業務で初の株式公開企業というわけですね。ますますのご発展をお祈りいたします。本日はありがとうございました。
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インタビュアー 田川えり子
フリーライター・リポーター・インタビュアー
大学卒業後、メーカー勤務を経て、1987年ブラックマンデーのその日からFP会社の事務に従事し始めたことが縁でFP業界の世界に入る。
現在はFP会社での経験を活かし、フリーランスの立場でFPセミナーの企画やセミナーリポート、インタビューなどに携わっている。マネーとキャリアという視点と、人と人との関りを大切にする心をベースに、役立つ情報を提供していきたいと考えている。AFP・キャリアディベロップメントアドバイザー。
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〜ブームに終わらず定着化の兆しも〜若者に人気沸騰のシェア住居データで見る不動産マーケット最新事情
シェア住居(シェアハウス)という住宅をご存じだろうか。キッチン、リビング、浴室、トイレ等の設備を複数名の入居者が共同で使用する住居の事を言う。昨今、20代の若者を中心に人気をほこり、運営業者、物件数も増加の一途を辿っている。
シェア住居は共用設備の利用において入居者同士がコミュニケーションをとれる点が特徴である。また、従来のルームシェアとは異なり、運営事業者が入居者をインターネット等で募集し、面談の上、入居させるシステムを採用している。
現在運営されているシェア住居物件のほとんどは何らかの中古不動産を再生して活用していると言われている。中古不動産の活用に困った場合に、シェア住居へのコンバージョンを検討する家主も少なくないと言う。また、中古不動産を買い取ってシェア住居にコンバージョンをし、利回りを上昇させて売却するといった投資家(法人中心)も台頭しているようだ。
この業界でパイオニア的存在であるひつじ不動産が、業界で唯一と言われるシェア住居に関する統計「シェア住居白書2008年度版」を公表している。
今回はこの白書のデータを元にシェア住居の実情を紹介していきたい。
入居人数10名以下のシェア住居が大半
図表1はシェア住居の年代別の推移を表したものである。ご覧のとおり、05年〜07年の3年間で物件数が急増している。この図表にはないが、地域別では東京都内に約8割の物件が存在している。
また、図表2は規模別の分布状況を表している。ご覧のとおり、10名以下の規模が過半を占めている。ひつじ不動産の分析によると、
小規模の物件では下宿、民家、3DK程度のマンション等を改修して再生しているケースが目立ち、中規模〜大規模のものではもともと社員寮、学生寮やマンション(一棟)であった既存建築を改修している場合が殆どであり、中にはホテルのような変り種物件も含まれている、という。
入居のコア層は20代後半〜30代前半
図表3は入居者の年齢構成を表している。20代までで約7割を占めている。また男女比でいうと約7割が女性である。ひつじ不動産によると、この調査終了後から2年間で30代前半が急伸し、現在は20代後半〜30代前半が中心層となっている。
図表4は入居者の就業形態を表している。イメージではフリーターなどが中心層かと思われるが、実態は正社員が最も多く、調査時以降も正社員の割合が伸びているという。また図表5は就職先の業種を、図表6は職種を表している。業種は多岐に亘っているが、通信・IT関連が最も多い。シェア住居にはネット環境が不可欠という説を裏付けるデータである。また、職種では事務と接客サービスで4割強を占めている。
図表7は年齢別年収分布を表している。年齢が上がるほど年収が増える傾向にあるのは当然だが、全世代を合計して年収180万円〜360万円で約6割を占めている。シェア住居の入居者は低収入者とのイメージを持つかもしれないが、必ずしも当たっていないようだ。
シェア住居入居者の6割以上は
シェア住居生活の経験者
ワンルーム賃貸ではなくシェア住居を選択した理由を表したのが図表8である。初期費用と賃料が安いことが1、2位を占めているが、すぐに入居ができることとシェア生活に面白みを感じているという回答が多いのも見逃せない。今回は誌面の関係で紹介できないが、シェア住居の入居者の64%は、以前もシェア住居生活を経験している。いわば、シェア住居の渡り鳥とも言えるライフスタイルを採用しており、昨今の若者層の新たな住まい方として定着しつつあるようだ。
また、図表9は物件捜索の手段を表しているがインターネットが8割以上を占めている。最近はひつじ不動産のサイトのようにシェア住居を検索できるサイトも登場している。
さらに図表10は物件に問い合わせを行った理由を示しているが、場所・価格という要因以外に清潔感と落ち着いた雰囲気が重視されていることがわかる。女性に限定したシェア住居が存在しているのも、上記の選択理由を見れば納得がいく。
シェア住居白書には今回、紹介したデータ以外にも様々なデータが掲載されている。また、同社によると、新規参入の事業者へ向けたセミナーの開催も予定しているという。シェア住居に対する関心は生活者、不動産業者とも高まる一方であり、単なるブームではないように思われる。
(編集室)
相続問題の新刊本が、専門書ではなく
一般書として書店に並ぶ時代になった
本誌編集長 江里口吉雄
最近、相続支援ネットのメンバー二人が相続問題の書籍の出版をした。それぞれ専門家の立場で相続問題を取り上げた一般書であり、
とても興味深いテーマでもある。出版後の各著者にインタビューとして紹介したい。
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『検討してみよう!生前贈与の基礎知識――カラクリがわかる 知らないと損をする』
鈴木和宏 著
株式会社ファーストプレス
2010年5月発行
鈴木和宏 すずき かずひろ
相続支援ネット 大阪なんばエリア
税理士。1955年大阪府生まれ。京都産業大学経営学部経営学科卒業後、大手百貨店の子会社経理部を経て、1983年12月に税理士試験に合格。84年2月、税理士登録。同年8月、鈴木和宏税理士事務所開設。
会社経営から個人の財産に至るまで、豊富な知識と経験を活かして、トータルな税務コンサルティングを行っている。“浪速の人情税理士”として、顧客それぞれのニーズに合わせた親身なサポートが好評。税務にとどまらず、起業支援や経営サポートなど積極的な中書企業応援にも注力している。
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――今回、「生前贈与」をテーマに取り上げられたのはなぜですか?
鈴木 様々な相続の現場を経験させてもらいましたが、やはり もめてほしくない というのが一番の思いです。かねて もめない相続 のための一般書を書きたいと思っていました。遺言や相続税対策の本はたくさんあるのに、生前贈与について一般の人向け書かれた本はほとんどないんですね。遺言も大切ですが、生きている間にもめないための対策を施すという点では、生前贈与をしてご自身の意志をはっきりさせておくのも、一つの有効な方法だと思いましたので、今回、税金面も含めてもめないための対策の一環として書かせていただきました。
――企画から出版までの道のりは順調でしたか?
鈴木 実は二十数社に提案していたのですが、なかなか話が進みませんでした。相続新聞社の久保木社長と相続支援ネットの江里口代表のお力添えで、ファーストプレスの上坂社長にお会いできて、本当によかったです。上坂社長は人間的にもたいへん魅力のある方で、ファーストプレスさんでの出版を決めました。出版が正式に決まる前から、自分で原稿を書き溜めていたので、出版社がきまってからは早かったです。
――実際に執筆が始まって、苦労されたことは?
鈴木 各テーマの導入部分を、夫婦の会話にしました。一般の方に気軽に興味を持って読んでもらうために、なにか特徴を出したいと思ったのです。実際のお客様とのやりとりなども参考にしながら、「こういう話、よくあるよね」という設定にしてみました。あと、相続・贈与は専門用語が難しいですから、なるべく簡潔にわかりやすく説明しようと、表現の仕方に苦労しました。
――本ができあがったときはどのようなお気持ちでしたか?
鈴木 やはり感激しましたね。これまで雑誌への寄稿や、小冊子を作成したことはありましたが、自分単独の名前で単行本を出したのは初めてです。書店で平積みがかなり減っていたりすると嬉しいですね。書店を回って、PRのための自作のポップを立てさせてもらったりしています。せっかく本にできたので、多くのみなさんに認知してほしいと思います。
――読者からの反響はいかがですか?
鈴木 5月27日に大阪で出版記念パーティをしましたが、そこでお会いした方がまさにこの本にあるような問題を抱えておられるということで、すぐに相談に来られました。出版後1週間もたたないうちに、PR効果が表れました。ほかに、読者からのeメールでの問い合わせや、事務所のお客様からの反響もきています。
――最後に、この本にこめられた鈴木先生の思いをお話いただけますか。
鈴木 相続でもめないための対策は遺言だけではありません。生前贈与をうまく利用して、上手に資産をバトンタッチしていってほしい。あげるほうも、もらうほうも感謝の気持ちを持って、幸せな家族を伝承していってほしいという思いで書きました。相続対策には、遺族が争わないため、納税資金を確保するため、相続税を少なくするために、という三つの目的があり
ますが、生前贈与はこのすべてにおいて重要な役割を果たすものです。やり方さえ間違わなければ非常に有効。そのあたりのノウハウはこの本に書いていますから、ぜひ読んでください。
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『絶対に後悔しない 二世帯住宅のつくり方』
山岸多加乃 著
株式会社ファーストプレス
2010年4月発行
山岸多加乃 やまぎし たかの
相続支援ネット 高井戸エリア
株式会社らいふでざいん雅庵 代表取締役
一級建築士 CFP
出産後、不動産開発・建築・分譲を手掛ける企業に入社。主に注文住宅の設計、分譲住宅、及び賃貸住宅の企画設計を担当し、ライフデザインに基づいた笑顔あふれる住まいを提供。2008年3月に税理士2名を役員とするFP会社(建築士事務所併設)、株式会社らいふでざいん雅庵を設立。ライフデザインから作る住まいと暮らしの提案、住まいのセカンドオピニオン、相続FPとしてコンサルタント活動をしている。
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――「二世帯住宅」を取り上げられたのはなぜですか?
山岸 私自身、二世帯住宅での生活を3回経験して、その大変さと良さを実感しました。いまは核家族中心の時代ですが、二世帯住宅のメリットは大きいと思います。ところが、仕事で相談を受けた中には、思い半ばでせっかく建てた二世帯住宅を壊さなくてはいけなくなった事例もありました。そのようなことが起こらないように、二世帯住宅をテーマとして、私の知識と経験に基づいた情報を発信したいと考えて、この本を書きました。
――二世帯住宅と相続の問題は、あまり言われていませんね。
山岸 お客様が来られた場合に、建築士など家を建てる側から、二世帯住宅にはこんな問題があると指摘することはまずありません。受注前に相続の問題があるので解決してからにしましょうというなどと言えば、いつになるかわかりませんからね。それに、建築士にとっては相続や不動産の問題は分野外で、わからないことに踏み込んでいけないのは当然ともいえます。私は建築士ですが、FPでもあるので、皆さんにそれをきちんと問題提起していくのが自分の仕事だと感じています。家づくりを提案する側として、ここは相続のときに問題になりそうですよとか、関係する様々なテーマや情報を提供できる体制でいたいですね。将来起こるであろう問題を解決しないままに二世帯住宅を建ててしまう人が多いのは、知らないからだと思います。だったら、知ってほしい、知らせてあげたいと思いました。
――出版が実現したのはどのようなきっかけでしたか?
山岸 以前から、私は「本を出したい」とさかんに周囲に言っていました。それが伝わったのか、たまたま相続支援ネットの江里口代表から出版してみないかとお話をいただき、実現できました。
――実際に執筆されている中で苦労されたことは?
山岸 一般の人に向けた本なので、専門家である私が普段使っている言葉で書いたのではダメ。わかりやすい文面はどうしたらいいか、表現や組み立て方、わかりやすい流れはどうなのか、いろいろ悩みました。特に、 実際に使える 図版を入れるよう工夫をしました。ライフデザインや間取りの考え方など、建てる前に自分で考えて解決しておくべき点をチェックリスト化して付けています。この本を読んでくれた人がみんな私に建築設計を頼んでくれればいいですが、多くの人はハウスメーカーや工務店、他の建築士さんに頼むわけです。そのときに、自分の要望を伝えやすいようにリストアップできるフォームがあればきっと役に立ちます。言葉で教えるだけ、説明するだけではなくて、読んだ人が自分で考えて書いて納得できる材料を渡したいと思いました。
――本ができあがってみてどんな感想をお持ちですか?
山岸 自分の考えが本として形になったのはとても嬉しいです。それに、本を通じて色々なご縁が広がったと感じています。こういう本を出している人なんだねということで、思いがけない分野の方からも、一緒にコラボしていきましょうとお話をいただくようになりました。
――この本を通じてPRしたいことを一言お願いします。
山岸 住まいを建てるにあたっては、自分の将来を見つめて、お金だけではなく生活設計をトータルに考えてほしい。そのお手伝いを私自身ができたら幸せだと思います。