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相続専門情報誌「Appoggio」アポジオ発行中!

Appoggio vol.16 2009 Autumn


対談

日本一の相続実務家集団を目指す 「野口塾」の目指すのものとは


川崎市出身。1994年に親の代から続けてきたガソリンスタンドを廃業、不動産業に転業した。跡地に相続対策で賃貸マンションを建てる際に税理士の相続コンサルを受けたことがきっかけで、相続に特化した不動産業を目指す。相続の中で顧客と各専門家をつなぐコーディネーターとして、新分野のビジネスモデルを確立した。2000年、不動産鑑定士である芳賀則人氏らとNPO法人相続アドバイザー協議会を設立。相続アドバイザー養成講座等を通じて相続の実務家養成を行っている。また、自ら相続実務学校「野口塾」を立上げ、塾長として資格(知識・経験・ノウハウ)と人格とを兼ね備えた相続の実務家集団づくりに情熱を注いでいる。相続は人と人との心つなぐヒューマンビジネスであり、相続コンサルは自身の天職であると考え、相続人の幸せを守ることを信条に活動している。独自の理念に基づき「心の相続」をテーマとする講演活動も展開中。著書に『相続アドバイザー』(共著、週刊住宅新聞社)、『心をつなぐ相続』(週刊住宅新聞社)がある。

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野口賢次さん
相続実務学校「野口塾」塾長
NPO法人相続アドバイザー協議会
副理事長
相続プラザ川崎 代表
有限会社アルファ野口 代表取締役

相続実務学校「野口塾」主宰する野口賢次氏と相続FP提唱者の本誌編集長との満を持しての対談は、やはり、同じ目的に向かっていた。それは、メンバーの一人一人に財産だけでなく人の心もコンサルテイングできるような実務家になってほしいと願っている。そして、知識や技術のレベルではなく、心の部分を上げていくことがいかに大切かということも。
江里口 「はじめまして」と言ったほうがいいですね。数年前から野口さんのことは存じ上げていたのですが、なかなかお会いする機会がなくて。今年の6月に相続アドバイザー協議会のセミナーに講師で呼んでいただいて、やっとご挨拶できました。こうやってお話するのは今日が初めてですね。
野口 私も数年前から江里口さんはなんだか気になっていました。なのに、会えない。不思議だね。今回はぱっと会えた。お互いなにか必要があったから会えたのかな、そんな気がします。
江里口 数年前から間接的には出会っていたわけですが、今回、満を持しての対談ですね。
野口 実は、江里口さんはもっとガチガチの商売、商売の人かと思っていたんです。でも、お会いした瞬間に、ああ全然自分の思っていた方とは違うなとわかりました。それどころか、どこか私と波長が合うような。
江里口 ありがとうございます。相続アドバイザー養成講座を始められたのとちょうど同じ頃から、私も相続FP養成スクールをやっています。野口さんが芳賀さんと一緒に相続アドバイザーのスクーリングをスタートされたいきさつは?
野口 芳賀さんと私の思いが一致したんですね。当時はバブルがはじけて、相続といっても何を今さらという人が多かったんです。でも、相続は財産だけの問題ではない。財産が大小に関らず、もめたり、いろんな問題が絡んできます。
江里口 もっとメンタルなものですね。
野口 相続に関してきっちり仕事をしてくれる専門家がほとんどいないのです。その専門家を養成しようじゃないかという話を芳賀さんからいただいた時、私も常々同じことを思っていましたので、二つ返事でやりましょうと。そうしたら、 徳 のある人たちが集まってきた。
江里口 損得の得じゃなくて、 徳 のある人ですね。
野口 手弁当で、儲かる儲からないじゃなくて、思いのある人が集まりました。当初5人ぐらいでしたが、出だしはパワーが要るじゃないですか。そういう人が集まったから動き出せたのだと思います。
江里口 「相続アドバイザー」というネーミングはどうやって?
野口 立ち上げた連中でいろいろ出し合って、コーディネーターとかコンサルタントとか、いろいろ出ました。私が「相続アドバイザー」って、響きがいいのでどうでしょうと言ったら、たまたまそれが採用されました。
江里口 野口さんが命名者だったのですね。私のほうは「相続FP」といっていますが、相続のプロ。プロというのはボランティアではなくてちゃんとお金をもらう。相続ビジネスの人、それが相続FPだと思うんです。レベルの差は様々あると思いますがお金を取る以上は責任もある。相続アドバイザーもプロ集団なわけですね。
野口 もちろんです。ただ、相談料をいただくという点では難しい部分もあります。どうしても弁護士法でいう非弁行為の問題がありますから。
江里口 相続は各業界の業法が入り組んでいますからね。
野口 原則としては、お客さんに喜ばれる仕事をすることだと思います。まったく業法に触れないでいくというのはムリですよ。どこかは触れていますからね。税理士さんにしても、相続の仕事に関っている人はみんなそうです。
江里口 よく道路交通法に例えられるのですが、広い道路が40キロ規制だからといって、40キロで走っていたら大渋滞を起こしてしまいます。45キロ、50キロくらいで走る、これは社会通念ですね。法律なんてそんなものです。業際問題は、完全に赤い部分に入ったらダメだけど、黄色の部分は通らせてねと。これでやらないと世の中うまくいかない。
野口 相続に関連する仕事でそれを厳密にはめ込まれたら、たいへんなことになってしまいます。極端な話、相続は弁護士しか扱えないのかと。そうなると一番困るのはお客さんです。
江里口 弁護士が相続に関して非弁行為だなんて批判の声をあげてきたら、極めて反社会的行為ですよ。割と多いのは、長男のお手伝いをしたら、次男から「長男に付いているのは相続FPなんて言っているけれどあれは非弁行為ではないか」と指摘されるケース。
野口 私は依頼を受けたとき、依頼者以外の相続人の方にも私が仕事として相続のお手伝いをしますとお話します。相手方から了解が得られないとしたらできません。そこで一線を引いています。相手が受け入れないのにぐっと入っていくと、それは問題になりますね。
江里口 言葉は悪いですが、弁護士をうまく使えばいいのではないですか。
野口 私は一つの理念として、相続案件には弁護士さんを入れません。法律問題にしたら兄弟の縁が切れてしまうからね。相続で切れたら二度とつながらないんですよ。他の兄弟喧嘩だったらまたつながることがあるけれど。
江里口 村八分以上ですね。葬式にも来なくなるくらい。
野口 こればっかりは悲惨です。たとえば、遺留分を侵害されている立場の人から相談されて、減殺請求をすると言ったときには、やめさせますよ。そんなことをしたら終わりだよって。弁護士さんから減殺請求の内容証明がいったら、その瞬間に縁が切れてしまう。逆に遺留分を侵害している遺言を執行しようとしている人も止めますね。
江里口 法的手段に訴えないで話し合いましょうということですね。
野口 そうです。こんなケースがありました。長男が同居してずっとお父さんの介護をしていたんです。財産といっても家1軒だけ。預貯金なんか500〜600万しかない。お父さんは「長男にすべての財産を相続させる」と公正証書の遺言を書いていた。長男が遺言を執行しようとしたら、兄弟の1人は「親の面倒をみていたんだから当然だ。自分たちは生前に少しもらっているし」と言ってくれた。ところが、もう1人が「権利がある」と言い始めて、遺言を使うなら遺留分の減殺請求をすると言って来た。それで長男が私のところに相談にみえました。私は、遺言を使わないで話し合いでいきましょうと言いました。執行したら、減殺請求がくる。そうしたら兄弟の縁が切れてしまって二度とつながらないから、遺言書は放棄しましょうと。結局、代償金を支払って長男が家をもらう代償分割にしました。「もう遺言書は使わないから、いくら欲しいんだ?」ということです。どのくらいの額を請求してくるのかと思ったら、300万で済みました。こっちが心を開けば、むこうもやっぱり気が付くんですよね。
江里口 300万で兄弟の縁を切るなんて寂しいですね。
野口 寂しいけど、当たり前の出来事。当たり前にありますよ。
江里口 相続というと、億単位のお金で、兄貴より俺のほうが1億少ないともめることはあるようですが、そうではないわけですね。
野口 300万どころか100万でも切れてしまう。
江里口 なぜ相続ではそんなことになってしまうのでしょう?
野口 相続人は自分がわからなくなっているんです。客観的に自分を見られなくなっている。それに気付かせてあげること、鏡をぽんと目の前に置いてやるのが我々の役目なのではないかな。
江里口 我々は鏡にならなくちゃいけない。自分の姿を見なさいと。
野口 ところで、江里口さんはなぜ相続FPを立ち上げようと思ったのですか?
江里口 私は住宅メーカーに勤務して土地活用を担当していました。地主さんとお付き合いしていると必ず相続が発生します。相続を切り札に、あれやれこれやれとやってきたわけです。相続といったら、税理士、弁護士の領域だから、我々住宅メーカーや不動産業界は入ってはいけない聖域のような部分だった。税理士さんをお連れしてそのままあとよろしく…と。で、どうでした?というと全部空中分解して何の問題解決もできていない。はてなと考えてみて、わかったんです。ズバリ、彼らは素人だから。何が素人かというと不動産を何も知らない、知ろうともしない。弁護士、税理士は不動産を勉強しようなんて微塵も思わないまま相続の相談を受けているからたまらない。内視鏡の道具を持って外科手術をするようなものですよ。
野口 おっしゃる通り。相続はいかに不動産を制するかだと思います。
江里口 相続=不動産です。財産はほとんど不動産ですから。
野口 現金ばかりなら、誰がやっても変わらない。
江里口 特に、遺産分割で不動産というと、同じ不動産、同じ土地はないわけです。それにもうひとり国という相続人が4割、5割がっぽり持っていきますよね。4割持っていく国に美味しいところをみんなとられてしまうわけです。税理士はいちばん美味しい土地を物納したり、売却させて納税したりする。
野口 この仕事に入っていちばんびっくりしたのが、税理士さんなら誰でも相続ができると思っていたのに、そうではなかったこと。その違いは一般のお客さんはわからないんですよ。我々はコーディネートが仕事ですから、一番適切な人をセットします。どんな専門家に頼むかで結果が半分以上決まってしまう。相続は何を知っているかではなくて、誰を知っているかで決まるといってもいいです。我々のようなアドバイザーが間に入らない限り、お客さんは誰に頼めばいいかがわからない。内科のお医者さんに外科手術をお願いするようなことになりかねません。
江里口 そうですね。相続は人のネットワークでのコワークビジネスです。みんなで分担してお客さんの案件を解決しましょうと。相続のプロは、いい意味での手配師ですが、執事(しつじ)でもありますね。
野口 1人でオールマイティとはいきませんから、ネットワークが命です。江里口さんを知っていれば、江里口さんのレベルの高いネットワークがある。ネットワークには階層があるんですよ。2階レベルの人に頼んだら、全部横並びで2階のレベルの専門家。どうやってもっと高い5階レベルの人にめぐり合うかですね。
江里口 逆に我々の側からいうと、スクーリングなどの機会に、自分のネットワークに高いレベルの専門家を増やしていかなくてはということですね。
野口 ネットワーク作りは大事です。常々感じていますが、高いレベルのネットワークを得るには、自分も磨かないといけないませんから。コンサル業は常に自分磨きです。
江里口 相続アドバイザーの講座とは別に「野口塾」という勉強会をされているそうですが、それはどういうメンバーですか?
野口 原則として相続アドバイザー協議会の卒業生で、私の目にかなった人。独断と偏見で選んでいます。30人ぐらいですが、弁護士、税理士、不動産鑑定士、FP、不動産業者さんもいるし地主さんもいます。共通しているのは、人間的レベルが高い方が多いこと。入門の条件が二つあります。一つは遅れず休まず早退もダメ。最初はこれできっちりやっていましたが、だんだん仕事が忙しくなって、来られない人も出てきています。もう一つは、ここでは私のノウハウを全部出しますから、学んだことを自分の中に溜め込まずにどんどん人に教えてやってくれということ。仲間でも同業者でも教わったことは全部公開してください。この2つが条件なんです。月1000円くらいの会費しかもらっていませんから、ボランティア活動のようなものです。
江里口 ビジネスではなく野口塾をやっておられる。
野口 相続アドバイザーになって、私なりにこの仕事に対する思いがあるんです。相続で失敗する人がたくさんいる。そういう人に私が行ってお手伝いしてあげたい。しかし体は一つしかない。どうしたらいいかと考えた時、自分と同じ人間をたくさん作ればいいのだと気づきました。塾をやって仕事に対する姿勢だとか知識、ノウハウ全部教え込んで同じような人を何人も作ろう。そうすれば、その人たちが相続で困っている人たちを助けてくれ、さらにまた人を育ててくれる。これはいいなと、そういう思いです。月1回やってますが、ちょうど来年の1月で100回になります。
江里口 30人では、なかなか狭き門ですね。
野口 今は定員いっぱいになってしまったので、この人いいなぁと思ってもなかなか誘えないのが残念です。この野口塾のメンバーが、財産だけではなく人の心もコンサルティングできるような実務家集団になってくれるといいな。野口塾を日本一の相続の実務家集団にしたいというのが私の夢です。
江里口 相続に特化した実務家集団ですね。
野口 財産だけでなくて相続人の幸せを守れるような、本当の意味での相続の実務家集団にできればなぁと思っています。
江里口 相続アドバイザー養成講座は既に500人を超える卒業生を輩出しておられます。相続FPがいまちょうど250人ですから、合計で1000人になる日も近いですね。
野口 同じ考えで同じことをやっているわけですから、組織が違っても同じこと。確かに1000人というのは、一つの区切り、一つのヤマですね。
江里口 このペースでいけば3年くらいで1000人になりますよ。1000人規模の相続プロ集団ができてきたら、そろそろ何か動きをしなくてはいけないと思い始めています。野口さんは相続の専門家集団の今後についてどうお考えですか?
野口 ある程度の集団になってくると、注目もされるし、社会的責任もでてきます。肩書きや資格は取れても問題はその後、力をつけていくのはその後です。相続は現場だから、いかに場数を踏むかです。全部パターンが違って同じものは一つもない。いかに現場に入って触れ合うか、ここですね。よく、お金にならないからといって簡単な仕事をやらない人もいるんです。美味しいところだけいただきたいと。そういう人は経験ができないから力がつかない。小さな仕事も一生懸命お客さんのためを思ってやると自分の勉強になって身に付くから、大きな仕事で同じパターンがあったときにその経験が活かせます。それと、知識や技術のレベルを上げていくのも大事ですが、それ以上に人間力というか、心の部分を上げていくことが必要です。特に倫理とかコンプライアンスとかの指導。知識ばかり上がってバランスが崩れてしまうといけない。両方上げていかなくてはいけない。その辺が一つの課題になっていくのかなと思います。
江里口 相続アドバイザー協議会として、新しいお考えなどありますか?
野口 新しいことというよりも、再度ここでしっかり土台の固め直しですね。江里口さんのほうは?
江里口 考え方は野口さんと同じです。相続FPはとにかくビジネス集団を目指します。相続におけるこのビジネススキームを普及させたい。普通のお客さんが弁護士事務所へ行かないで、我々の看板を目指してくれるようになってほしいと思っています。
野口 今度、機会があったら、野口塾にも一度お話しに来てください。
江里口 ありがとうございます。最近はFPのスタディグループという勉強会に呼ばれたりもします。仕事ではないですけど、来年還暦だし、そういう社会的な意義のある活動もいいかなと。
野口 還暦なんてまだまだこれからですよ。私のほうが少し年上ですが、還暦を過ぎてようやく人間として味が出てきて、まともな仕事ができる年になったのかなと思っています。
江里口 相続アドバイザーと相続FP、お互いにいい刺激を与え、いいところを学びながら伸びていけるといいですね。今日はありがとうございました。野口塾、楽しみにしていますよ。


インタビュー

一冊の本に官僚機構改革の新しい視点が見えてきた時代を感じる


1948年埼玉県生まれ。1972年東京教育大学(経済学専攻)卒業後、三井信託銀行に入行。在職中に税理士と不動産鑑定士の資格を取得。在勤16年のうち10年間にわたり不動産業務を担当、現場で不動産実務経験を積む。バブル絶頂期の1988年、40歳で退職、森田税務会計事務所を開設。“不動産屋あがりの税金屋”をキャッチフレーズに、相続税など資産税に特化した税理士、土地評価のスペシャリストとして税務関連業務はもちろん、講演・執筆など幅広く活躍している。資産税における不当な不動産評価の実態を世の中に公表すべく、『新・怒りの「路線価」物語』、『新・嘆きの「固定資産税」物語』(ともにダイヤモンド社)を上梓、業界や国税に大きな影響を与えた。不動産の税務評価に関する行政訴訟も多数手がける。最新刊『裁判所の大堕落』(コスモの本、2009年9月刊)では自身の訴訟経験から裁判所の実態を分析、現在の司法の問題点を鋭く指摘し、税務の領域を越えた日本社会への問題提起を行っている。
主な著書: ・『新・怒りの「路線価」物語』(1997年・ダイヤモンド社) ・『新・嘆きの「固定資産税」物語』(1997年・ダイヤモンド社) ・『公示価格の破綻』(2004年・水曜社) ・『はじめての不動産実務入門』(2003年・近代セールス社) ・『取り返せ!相続税』(2006年・スバル舎) ・『裁判所の大堕落』(2009年9月・コスモの本)

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森田義男さん
税理士・不動産鑑定士
森田税務会計事務所 代表
相続支援ネット顧問
相続FP養成スクール校長

森田義男氏の近著「裁判所の大堕落」で暴露された行政と裁判所の仕組み。 インタビュアー田川えり子が、ずばりその背景と本質に迫る。
――9月に出された森田先生の著書『裁判所の大堕落』、読ませていただきました。裁判所は行政や検察の面子をつぶすような判決は出さない。だから行政訴訟は勝てないし、刑事訴訟は99・9%有罪になるのだという先生のお考え、目からウロコでした。世の中こういう仕組みになっているのですね。
森田 こういう仕組みを指摘したのは私のほかにはいないと思います。役人が悪いとか、あの判決はおかしいとか言っていますが、それは個々の事件についての問題提起。痴漢の冤罪を扱ったテレビドラマで、最後に弁護士さんが話していましたね。裁判官がびしっと指示を出せばやるのだと。ただ、なぜ裁判官がそういう指示を出さないのかという話にはいかない。裁判所が最高裁事務総局に牛耳られているとか、刑事裁判はおかしいとか、いろんな観点から様々な批判は出ています。しかし、ぐるーっと共通項をまとめて本質を突いたものがない。
――森田先生は、薬害事件をはじめとするデタラメ行政、役人の悪事も裁判所に原因があるとお考えですね。
森田 これは私の新たな観点です。要するにブレーキ役がいないとダメなんですよ。だから、役所があんなデタラメをやっている。平成18年に起きた「高知白バイ事件」、高知で白バイがスクールバスに衝突して隊員が死亡した事件ですが、スクールバスの運転手に全面的に非があると警察が状況をでっちあげて、結局裁判でも有罪になりました。警察の幹部だって個人個人は良心がないわけではない。でも、組織を守りたいから、裁判所が上手くやってくれるのなら、そのお世話になろうよというわけです。検察官も警察とは仲良くしたいし、裁判官がなんとかしてくれるだろうと。
――本来は裁判所が、警察や検察、行政の側に立つ人たちのブレーキ役になるはずなのですね。
森田 私はこれまでに20件以上、不動産評価や税金に関する行政訴訟をやりました。理論では私が勝っているにもかかわらず、判決で負け続けるという現実の中で、このブレーキ役の存在に気づいたんです。人の心は弱いですから、ズルをやりたくなることもある。そんな時、歯止めをかけるブレーキ役となるものが社会には存在する。親に叱られるとか、お巡りさんに捕まるとか。ところが、役所が被告となる行政訴訟では、裁判所が役所の違法性を認めることはほとんどない。薬害事件にしても、裁判所は役所の責任者を無罪にしてしまう。結局、役所に対するブレーキ役が存在しないから、役人の悪行は止まらないのです。
――弁護士さんは、そんな判決に批判の声をあげないのですか。
森田 確かに弁護士は一般社会の中で働き、社会経験を積んでいますから、裁判官とは違います。しかし、私のような外部の人間の目で見ると、やはり最高裁に洗脳されているんだなという印象を持ってしまいます。司法試験に受かると、以前は2年間、今は1年間ですが司法修習に入ります。その間、最高裁の下で、これをやってはダメ、あれをやったらダメとたたきこまれる。最高裁の発想と意向を刷り込まれるのです。こういう本を書いて、弁護士さんが果たしてなんと思うか。いろんな人に渡しましたが、あそこがちょっと違うね、ここが違うねと評論みたいな事は言ってくれましたがそれだけ。私の盟友の関戸一考弁護士だけが、ホンネで、「森田さん、面白い、すぐ出せ」って言ってくれた。嬉しかった。
――面白いですよ。ちょっとタイトルがとっつきにくい印象ですが、読み始めるとぐーっと引き込まれました。中身ははご自身の経験、まさしく事実に基づいたものだから迫力を感じます。訴訟までやっておられるのですね。
森田 ビジネスではなくて私ほどやっている人はいないと思いますよ。行政訴訟というのは勝てないんです。私は東京高裁で4件、行政訴訟で勝ちました。これはたいへんなことなんですよ。もちろん弁護士事務所でビジネスでやっているところは別ですが。ただ、私に言わせれば、あれだけやっていて私でさえ4件しか勝てないのだから、これはおかしい。私は「このやろう!」ってやってるだけですから、絶対勝てる案件しかやりません。ビジネスでやっている弁護士なら、勝てなくても着手金がとれるからいいですよ。だから、勝てそうもないけどやってみるかというのもあるでしょう。私が選ぶのは絶対勝てるというやつ。もう一つは「そんな馬鹿な話あるか」という心からの怒り。その二つですね。そうじゃないと、行政訴訟はやっていられません。
――行政訴訟というのは、どんなやり方をするのですか?
森田 行政訴訟を含めて民事訴訟は書面による争いです。まず原告が訴状を裁判所に提出し、被告側が答弁書を出す。それを受けて原告側が準備書面という書面により答弁書に反論、また被告側もそれに対する準備書面を出す。原告側と被告側の準備書面の応酬なんです。私はこの準備書面を書いている時が一番楽しい。勝てるに決まってるんだから。向こうが何か言ってきたって、「ほーらまた馬鹿が言ってきた。これもおかしい、これもおかしい」と、みんなぶっつぶしてやる。本当に気分がいい。雑誌や本の原稿には字数制限があるけれど、これはないから、もう楽しくて。提出する前に弁護士さんに見せると、表現がちょっときついので修正するように言われたりもします。やはり、裁判官に洗脳されているんです。私たちにしてみれば、「なんでそんなことに気を遣うのだ?」ということなのにね。
――土地の評価がおかしいという場合、訴訟で勝てば、判例となってその後の評価方法が変わるのですか?
森田 それがそうはいかない。相続税の評価で、無道路地で接道義務が2メートルのところ1・8メートルしかない土地があったので、争ったことがあります。規定では接道4メートル未満は一律1割引というだけです。「1割引なんてバカをいうな。2メートルの接道義務が満たされているのと満たされていないのとでは天と地の差があるんだ」とやったわけ。最終的に何とか勝ちましたが、「この件については評価を下げましょう」で終わってしまった。税金が2000万円くらい戻って、それで終わり、あいつらお金が欲しいんだから戻してやればいいのだと。「接道義務を満たしていない土地は4メートル未満1割引からさらに3割、4割下げろ」というのが私の主張だったんです。規定がおかしいから評価がおかしいということで勝ったのに、その規定は直さなかった。国税庁は、あれは特殊な事案といえるものだから、規定はこれでいいという見解。規定は今も残っています。そういうずるいことをやるんです。
――固定資産税評価についても訴訟をしておられますね。
森田 私にとっていちばん大きな勝利だったのは、「時価を超える評価は違法だ」というものです。当たり前の話なのですけどね。固定資産評価は自治省が定めた固定資産評価基準に基づいて市町村が行います。固定資産税評価が時価を明らかに超えている、つまり「評価が100円だけど時価は70円」というものがあって、これはおかしいと言ったところ、役所は「時価が70円かどうかわかりません。とにかく私どもは評価基準どおりに評価しているのだから間違いはないのです」という。法律には「評価基準どおりに評価しなければならない」と書かれており、法的義務があるのでその通りにやっているのだそうです。「その評価基準がおかしいのだ」と指摘すると、「私どもは評価基準を云々することはできません」と言うわけ。役人のホンネは評価基準どおりに評価したものが地方税法上定める時価だとみなすという考え方なのです。
――時価なんてわからないから、評価基準どおりに評価したものが時価だというわけですか。
森田 それが違う。時価は厳然とある。時価を評価するための手段として評価基準があるのだから、評価基準が間違っていたら具合が悪い。間違いは間違いとして認めろと争いました。そして、ついに裁判所は「評価基準で評価しても時価を超える評価は違法だ」という判決を出した。これはみんなの発想を変えさせるものでした。同時に、時価を超えるものがあれば違法だということで、争いになれば役所もまともに対応するようになりました。実にくだらない話です。もともと法律には固定資産税の課税は「適正な時価」によると書いてあって、評価するために固定資産税評価基準を定めろとなっているのだから。
――固定資産税評価額というのは普通、時価より低いですよね。
森田 普通はね。だけど、評価基準の規定がおかしいから、時価よりずーっと高くなることがある。面積が広すぎるとか無道路地とか接道義務を満たしていないとか、欠点のある土地は現実には時価が下がる。なのにそれを無視して評価しているんです。要するに評価基準の出来が悪い。だけど、評価基準で評価したものが時価だから評価基準を直す必要はないなんて、もう無茶苦茶だ。そういうことを言い張る。こんな話を始めると止まらないですよ。(笑)
――お話の勢いに圧倒されてしまいました。この本で森田先生の言いたいことはすべて言い尽くされたのでしょうか。
森田 実はあと2章あったんです。1つは弁護士批判、とことん批判。もう1章は税理士さんに向けて、みんなで税務訴訟をやろうよ、面白いよという呼びかけ。みんな裁判は難しくてレベルの高いものだと思っています。まして自分は法学部も出ていないし、司法試験なんて「し」の字も受からないなんて。法学部を出ていないのは私も同じ。民事訴訟法なんて読んだこともないのが突撃しちゃう。法律なんて常識・社会通念の集大成です。テクニック的なことはたくさんありますよ。でもそんなことは聞けばいいんだから。最初から本人訴訟というのはちょっとムリかもしれないけど、最初は弁護士に頼んで、その弁護士にいろいろ教えてもらえばいい。それに、税務訴訟はビジネスになりますよ。私は趣味でやっているから絶対ゼニにならない固定資産税が主力です。なぜかというと、こっちのほうが案件が多くてやりやすいから。相続税だと、私の顧客に矛盾した評価が出ない限りやりようがない。他の税理士さんは私に頼んでくれないからね。税理士仲間で横につながって、「俺たちは裁判だってやるぞ、国税には強いんだぞ」とふれこめば、絶対ファンがつく。腕のいい税理士の要件は、「不動産に強くて、税務署に強くて、お客に弱い」、このパターンです。たとえば、ダメだと思っていた案件で裁判までやって相続税が5000万戻ってきたら、半分いただいてもおかしくない。勝てるものに絞ってやれば、勝率4分の1くらいにはなると思う。絶対にビジネスとしていい。これ、ホントに儲かりますよ。
――ところで、お金にならない行政訴訟に力を注がれているのは、どういうモチベーションからなのでしょう?
森田 エエカッコして言わせてもらいますとね、せっかくこの世に生きているんだから、「世の中良くしようよ」という気持ちがあるんですよ。良くするといっても向き不向きがあるから、不得手なことはできません。得意なこと、得意だと思う分野で皆それぞれやればいい。たまたま私はこの分野が得意だからやってやるかというわけです。なおかつ、本来こういうことはあって然るべきなのに、幸か不幸かほとんど誰もやらない。だから相当エエカッコできる。私がこんなことをやっているとわかれば、「えっ、森田ってそんなに偉いの」ってね。私だったらそう思うからね。自分としては非常にやりがいがあります。おかげさまでメシは十分食えてますから、こういう趣味もまあいいんじゃないですか。
――趣味とは面白いですね。おかしいと感じるような法律や社会制度に対して声をあげて、どういう社会を目指しておられるのですか?
森田 要は、役人どもが一生懸命やっているかどうかなんですよ。薬害事件でも、一生懸命やった結果「今思えば規制の時期が遅すぎた。あの時はこう考えていたんだけど、いやぁ申し訳なかった」というのであれば仕方ないともいえます。だけど、そうではなくて役人は意図的にデタラメをやって国民生活に甚大な影響を与えている。それでいいわけはない。それが許せなかった。彼らは意図的に悪いことをしているのに、悪いことという感覚が無く、それどころか周囲は彼らは優秀だと誉め称えている。ペーパー試験を通っているのだから、仮に実力はあると認めましょう。しかし、公の職に就く人には実力と「まともな心」と両方要ります。どちらが優先するかといえば、まともな心に決まっている。それがないのでは話にならない。
――この本で裁判官も政治家が怖いと書いておられますが、政治家が法律を作るからですか。
森田 法律を作るからではなく、最高裁長官を指名するのが内閣、政治家だからです。田中角栄は最高裁の人員を全部入れ替えてしまった。政治家にはそれができるんです。
――民主党政権になって、裁判所、特に最高裁は変わるのでしょうか。
森田 期待できないでしょう。民主党政権は私のような認識をもっていません。裁判員制度が下からじわじわと変えていくとは思いますが。せっかく民主党が静かなる革命を起こしたのだから、本当はここに及んでほしいですね。役人を改めさせようとやっているわけですが、悪事をはたらいた人が助かってしまったら、やめはしませんよ。なんで薬害が終わらないか。当たり前の判決が出れば、一発で止まることですよ。先輩が製薬会社のために禁止すべきものを禁止しなかった。被害者は文句を言ってきたけど、裁判所に助けてもらってその先輩は平気だった。そうやって頑張った先輩を厚生省は出世させてくれた。役所はそういう仕組みになっている。それを見ていた後輩が同じことをやる。そういうふうに組織は動いている。民主党政権になったからといって簡単に変わるものではありませんが、政治家が「裁判所こそが問題だ」という意識を持って研究会でも作ったとなれば、それだけで風向きが変わると思います。
――政治家に裁判所の堕落を認識させるということですね。官僚機構改革の新しい視点が見えてきたように思います。今日はありがとうございました。

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インタビュアー 田川えり子

フリーライター・リポーター・インタビュアー 大学卒業後、メーカー勤務を経て、1987年ブラックマンデーのその日からFP会社の事務に従事し始めたことが縁でFP業界の世界に入る。 現在はFP会社での経験を活かし、フリーランスの立場でFPセミナーの企画やセミナーリポート、インタビューなどに携わっている。マネーとキャリアという視点と、人と人との関りを大切にする心をベースに、役立つ情報を提供していきたいと考えている。AFP・キャリアディベロップメントアドバイザー。



特集

データで見る相続最新事情

相続問題は一部の富裕層限定にあらず

昨今は、週刊誌にも相続に関する記事が掲載され、TVでも相続争いの末の事件を報じるケースが増えてきた。高齢化社会の到来を迎え、日本全国の津々浦々で日々、相続が発生している。相続問題は一部の富裕層だけのものではなくなり、もはや日常一般化してきたと言えるだろう。そこで今回は相続の各種データに基づき、相続最新事情を分析してみた。
家庭裁判所への相談件数は 9年間で倍増
図表1は家庭裁判所(以下家裁)への相続相談件数を表示したグラフである。ご覧のとおり、平成10年度は7・6万件だった相談件数が平成19年度度は15・4万件と倍増していることがわかる。相続税の課税割合は4〜5%程度と安定しているが、相続の相談件数は激増しているのである。同じく司法統計によると、遺産分割に関する調停事件数は昭和60年が5・141件、平成10年が8・708件、平成19年が10・317件と増加している。相続でもめる割合が年々増加している様がみてとてる。このもめる割合は遺産額との相関関係はなく、遺産が多くても少なくてももめる傾向にあるという。
遺言件数も順調に増加
一般にもめる相続を回避する対策として遺言書の作成があげられる。遺言書には大別して公正証書遺言、自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類がある。日本公証人連合会の調べによると公正証書遺言の作成件数は平成11年度が5・8万件だったのに対して、平成20年度は7・6万件に増加している(図表2参照)。
日本の人口が126・085千人であり、そのうち60歳以上の人口が35・767千人(平成19年10月1日現在人口推計人口で総務省統計局調査)である。ということは60歳以上の500人に1人が公正証書遺言を作成していることになる。
また家裁による自筆証書遺言の検認件数も平成9年は8・9千件だったのに対し、平成19年は13・3千件と公正証書遺言以上の増加率を見せている(図表3参照)。自筆証書遺言は被相続人自らが作成できるという手軽さはあるが、表記の内容によっては、相続財産が特定できなかったり(法的不備)、偽造の可能性もあったりするなどのデメリットもある。家裁の検認を受けて初めて効力があることもあまり知られていない。
信託銀行の相続関連業務も年々拡大
生活者が相続相談というと真っ先に思い浮かべるのは信託銀行になるだろう。数多くのメディアを使用して、「遺言信託」というサービスをアピールしているからだ。信託銀行が実施している遺言関連業務は、遺言作成業務、遺言管理保管業務、遺言書の執行、遺産整理業務である。
図表4は社団法人日本信託協会が公表している各種業務の件数である。それによると遺言書の保管に関する合計件数は98年が23・870件だったのに対し、08年は65・612件と10年間で2・7倍に拡大している。遺言書の保管のみの件数はこの10年間で1000件程度しか増加していないが、執行つきの件数は約4万件強も増加している。遺言の内容が確実に実行されることを願っている人々が年々増加していることの表れではないだろうか。
また、遺産整理業務も98年が905件だったのに対し、08年は2・695件と約3倍弱の伸びを示している。
独立FPも相続相談が増加
図表5は日本FP協会が会員向けに実施している平成20年のFP実態調査の一部である。個人顧客顧問料売上のある人々(総数124名)から相談の多い分野をヒアリングした結果を示している。日本FP協会の会員数は約17万人だが金融機関、証券会社、保険会社の社員が多くを占めている。したがって、相談分野は金融資産運用設計、保障・補償設計が中心を占めるはずだが、この調査項目では独立系が124名中99名を占めていたために、異なった結果が示されている。
AFP資格者では相続・事業承継分野が相談分野の30・4%を占め、全分野の1位となっている。また、FP業務経験年数で見ると、9年以上の業務経験のある人では、相続・事業承継分野が相談分野の32・4%を占め、全分野の1位となっている。
さらに興味深いことに、金融機関等に所属している人でも、相続・事業承継分野が金融資産運用設計と並んで相談分野の23・8%を占める1位となっている。
個人顧客から顧問料をいただいているFP資格者は全相談分野の中で相続相談がかなりの重要性を帯びていることを如実に示しているといえよう。
相続相談を希望している人々のうち、富裕層は信託銀行、弁護士事務所、会計事務所等を頼りにすると思われるが、一般層はどこに相談に行って良いかわからない人が多数と言われている。相続専門の民間団体はいくつか存在しているが、信託銀行ほどの認知度はない。相続専門の民間団体を取りまとめる組織ができ、一般層が安心して相談者を探せる体制が構築されることを願ってやまない。 (編集室)


連載

米国FPAカンファレンス2009・レポート


アポジオ連載ページへ FP誕生40周年記念となった米国のファイナンシャルプランナーの業界団体である FPA大会の突撃レポートと考察団インタビュー

初めまして、青山エリアの小屋です。今回は、相続支援ネットに参加したばかりの新参者の私ですが米国FPAカンファレンスに参加していますので、急遽レポーターとしてカリフォルニア州アナハイムで開催されている、FPAカンファレンス2009の様子について現地より実況報告いたします。
アナハイムは、ロサンゼルスから車で1時間ほど南に行った都市、オリジナルのディズニーランドがあることでも有名です。 実際滞在中のホテルには、ディズニーランドを目的に来た子供連れの家族が大勢います。ホテルの客の大半は、FPAかディズニーランドかという感じがします。
FPAとは、Financial Planning Associationの事でファイナンシャルプランナーの業界団体です。FPAカンファレンス自体は毎年この時期に一度、西部・中部・東部の持ち回りで行います。今年は西部のアナハイムでしたので、来年は中部のコロラド州デンバーでの開催予定となっています。
今年のカンファレンスは米国でもFPが誕生してから40周年ということで記念の大会となりました。
まずは到着初日。大会は翌日からなのですが、この日は既にアナハイムに集まった世界のFP達とディズニーランド内のレストランで食事会が開催されました。オーストラリア・ニュージーランド・オランダ・ブラジル・アルゼンチン・カナダ・アメリカの方々に我々日本人が加わり、食事をしながら各国の現在の経済状況や各自のビジネス環境やクライアントの状況などについて語り合いました。総じて、昨年のリーマンショック以降は各国ともクライアントの行動が極めて保守的で、資金が銀行預金ばかりに集中してしまうのが残念だという声が多かったのが印象的でした。
翌日、ついに大会の開催です。最初はオープニングセッション。「Optimism Can Take You Anywhere(楽観主義ならどこでも行ける)」という話。FPビジネスそのものというよりは、「Optimism楽観主義」を前面に出してビジネスをすると自然と周りの人や結果も付いてくるという経営全般とブランディング構築に対する話でした。
そして、その後夕方からは昨日同様にInternational Receptionとして、米国以外からこの大会に参加しているFPが集合して各国の状況やFPビジネスについて意見交換を行いました。私は英語が得意ではありませんので、同様に苦手そうにしている韓国人の集団と会話を楽しみました。韓国からはサムソン証券の方々が多かったですが、彼らの話では「昨年、金融機関の規制が緩和され、証券会社と銀行と保険会社の垣根が低くなった。証券会社でも保険商品や銀行商品などを取り扱えるようになった。」とのことです。日本の場合には緩和されてきたとはいえ、まだまだ各金融機関間の垣根は高いので韓国を見習ってほしいものです。
大会二日目、カンファレンスの朝は大変早いです。朝7時から既に、朝食を食べながらのカンファレンスが始まります。最初に出席したのは債券ETFの講義。日本でも人気のあるiシェアーズの担当者が講師です。
日本の場合にはまだ先月に日興アセットマネジメントが外国債券のETFを発売したのが目立つぐらいで本数が少なくて馴染みが無いですが、米国でも種類や本数は日本よりも多いものの投資家やFPの間での認知度は不十分のようです。ETFの場合には内部留保ができないため、国債、社債、不動産債券など様々な種類の債券に分散投資することでキャッシュフローを生み出す商品のようです。
2つ目の講義は、ファイナンシャルプランナーのこれまでとこれからのお話。講師はテキサス工科大学の先生でしたが、私がびっくりしたのはテキサス工科大学にはファイナンシャルプランニング学科があり、そこで修士や博士レベルで勉強している生徒が沢山存在するという事です。もちろんここの生徒たちも多数参加していまして、トレードマークなのか真っ赤なシャツを着て会場を歩いています。
3つ目の講義は、CRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)のソフトウェアについて。私も顧客の管理で良いツールが無いかどうか、悩んでいましたので、こちらのFP向けCRMソフトウェアの講座に参加しました。講師はCRMソフト開発会社の社長です。しかし、この講座は失敗でした。
あまりソフトとして完成度や利用方法などで魅力を感じることができませんでした。このように必ずしも当たりの講座ばかりでもないところが講座選びの難しいところです。
ここで、ようやくお昼。お昼は展示ホールの中で、ビュッフェスタイルの食事。正直なところアメリカンな味付けで、それほど美味しいとは感じません。これはアメリカに来たという事である程度覚悟していたところです。
午後は、少し休憩して(もちろんこの間もいくつもの講座が開催されています)、メインイベントのスピーチを聞きに行きます。IOU・S・Aという米国政府・州の債務過剰問題についてのお話。年金、医療などの社会保障問題については、日本だけではなく先進国には共通の課題とも言えるでしょう。米国の場合には政府も赤字体質で、家計も赤字体質な為に、どうしても海外から資本を調達しなければならない面があり、それを米国のFPたちも真剣に米国の将来を憂いていました。日本の財政状況は、米国政府よりも現状は厳しいのですが、一般的な日本人はあまり財政問題についての意識が低いように感じました。
ただ、これは米国のFPと話をしたので、米国も一般人は日本人とあまり変わらない危機意識なのかもしれません。
これで2日目の大会は終了。最終日までお伝えできずに残念ですが、原稿の締め切りの関係も有りFPAカンファレンス実況はここまで。
この後のカンファレンス、米国FP事務所訪問につきましては、別の機会に触れたいと思います。

鷲山さんにインタビュー

今回、FPA考察団の団長を務められている、鷲山俊男さんに特別インタビューを行いました。鷲山さんは、なんと20年以上も連続して欠かさずにFPの世界大会に参加しているとの事で大ベテランです。

――今年のカンファレンス(大会)の様子は例年に比べて如何ですか?
鷲山 今年は、昨年からの金融危機も影響しているのか、参加者も少ないし、スポンサーも少ない感じがしますね。例年の7割程度の参加者しかいないような感じを受けます。
――実際に20年以上もFPの世界大会を観てこられて何か大きな変化を感じますか?
鷲山 これらのカンファレンスも、昔の方が手作り感があって楽しく、アットホームな大会でしたね。最近はこの大会自体がルーティンワークを消化している感じで、予算の関係もあるかもしれませんが、受付にしても、対応にしても、徐々にチープと言うか安易な感じになってきたように思います。しかし、続く事が大事なのですね。
また、個人的な感想ですが、アメリカ人が近年、自信をなくしつつあるんじゃないかなという印象も強く受けましたね。
――20年以上連続して参加されているとの事ですが、このカンファレンスの一番の魅力はどんなところですか?
鷲山 いつも言うのですが、このカンファレンスに参加すること自体が定時定点観測と言っています。毎年連続して参加して、世界のFPと会話を交わし、各都市の状況を観察することや、スーパー等に立ち寄る事によって、世界(米国)の経済状況が等が肌で感じられるようになるんです。今年の状況から判断すると、オバマさんの神通力が落ちて、俗に言う「二番底」が起きる可能性を否定できないのかな?という印象を抱きました。また、米国のFP業界で起こった出来事は、その是非は別にして、日本では、数年後に発生する事が多いようです。その意味で、日本のFP業界で今後、発生するかもしれないことを事前に予測することが出来るのは、このような大会に積極的に参加することが大変重要だとも思っています。
――これほど連続して参加されるのは大変ではないのでしょうか?
鷲山 我々のツアーは、基本的に遊び(余裕)の部分が多いんです。あまり肩に力を入れず、勉強だけでなく余裕を持たないと、参加される方だって疲れてしまうと思うからです。適度に遊び部分を交えながらも、勉強する時には真剣に勉強する。このメリハリ感と、安く行くために現地集合、現地解散の形を続けている事が長く続いたコツだと思っています。
――今後の鷲山さんの活動について教えてください。
鷲山 このFPAを含めたカンファレンスには、FPである限り、死ぬまでずっと参加し続けるつもりです。個人的には、少子高齢化時代を迎えて、成年後見人制度の活動について力を入れていきたいと思っています。日本では高齢化社会になっているにもかかわらず、まだまだ後見人制度そのものがマイナーな存在なのが気がかりです。これからFPとしても、社会貢献の一環として必要不可欠な制度になると思っていますので、この普及活動を今後のライフワークにしていきたいと真剣に考えています。
――ありがとうございました。

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リポーター 小屋 洋一

1977年宮崎県生まれ。2001年慶應義塾大学経済学部卒業後金融機関、不動産事業者に勤務し、2008年独立。個人のファイナンシャルリテラシー向上をミッションとした「株式会社マネーライフプランニング」代表取締役個人の世帯を中心に、保険相談・住宅取得・資産運用・相続まで幅広くコンサルティングを行う。その他、個人投資家として中国株やベトナム株を中心とした新興国株式投資を実践中。ビジネス・ブレークスルー大学院大学「株式・資産形成講座」講師。相続支援ネット青山エリア代表。



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