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相続専門情報誌「Appoggio」アポジオ発行中!

Appoggio vol.15 2009 Summer


対談

アメリカで活躍する資産運用のコンサルタントはCFPとは限らない


1953年大阪生まれ。大学卒業後、教師1年を経て渡米。一貫してファイナンシャルサービスに携わる。2002年に財務エキスパートたちを結集し、ロサンゼルスでリーバンズコーポレーションを立ち上げる。保険、証券、不動産の一体化サービスを基本とした総合ファイナンシャル会社を目指す。アメリカにおける信託(生前信託、チャリタブルリメインダー信託、ウルトラ信託など)に特化し、資産形成・運用を主な業務として活躍。セミナーや相談会も行っている。 アメリカでの日系人向けサービスでは、体の不自由な人々にツアー、スポーツ、イベント情報、ロサンゼルスと周辺都市の公共施設や観光地のバリアフリー情報を日本語で提供。自立した有意義な生活が送れるよう支援している。 2009年、アメリカの不動産バブル崩壊を逆手に取り、カリフォルニアの競売不動産物件に投資するファンドを組成。アメリカの金融・不動産法制に精通し、現地の不動産市場を熟知している市丸氏ならではのノウハウとブローカー人脈をフルに活用したユニークな商品として日本でも注目されつつある。

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ニック市丸さん
リーバンズコーポレーション
President



江里口 ニックさんと知り合ってはや2年。初めてお会いしたのはFP協会でしたね。
市丸 江里口さんが「日本のFPは誰も食べてないよ」って、その一言がインパクトがあって、ああ江里口さん面白い人だな、この人としゃべりたいなと思った。それが始まりでしたね。同じ匂いがするというか。僕は日本からはじき出された人間だからね。
江里口 ニックさんはカリフォルニアでFP会社を経営されていますが、そもそもどういう経緯でアメリカへ?
市丸 大学を出て日本で歴史の先生をやっていたんですけど、好きなように授業をやりすぎてクビになりました。
江里口 そもそも教員免許なんて真面目な学生じゃないと取りませんよね。
市丸 父は銀行員でしたが、規則正しい毎日の繰り返し。そんな型にはまったのが大嫌いで、16歳のとき自分一人で生きようと思いました。そのためには授業料が安い国立大学に入らないとダメ。それで調べて見つけたのがたまたま静岡大学の教育学部だった。4年間、ほとんど勉強なんかせずに、ハワイへ行ったりとか、違うことばかりやっていました。でもとりあえず卒業はしなくちゃいけないから教職をとって先生になってみたけれど、やっぱり合わない。
江里口 そうすると普通は転職になるんですが、日本を出てしまったわけですね。
市丸 ハワイへ行ったときに、可愛いハワイアンの女の子に言われたんですよ。「あなたは学校で何をしているの? 学校は勉強しに行くところよ」って。それで、そうか、学校って勉強しに行くのかと初めて気がつきました。それまでは学校が勉強するところとは思っていなかったんです。階段を上るみたいに、あるから行けばいいかなくらいで。アメリカ人は目的意識が本当にはっきりしているんだなと思った。それにイエスとノーしかない。グレーがないんです。これは合うなと思って、それからアメリカのことが好きになりました。
江里口 アメリカに行かれたのはいつ頃ですか?
市丸 78年ですから、もう31年になります。ロスでは最初、皿洗いとか、酒屋さんの掃除とか、何でもやりました。英語もあまり出来なかったから危ない目にあったこともありました。でも、もし日本にいたらきっと私は嫌われていただろうと思うので、アメリカのほうが住みやすかった。アメリカには自分と同じような人しかいないから。
江里口 FP業務の方向にいかれたのは?
市丸 まず不動産のライセンスをとりました。アメリカの不動産の資格はセールスマンとブローカーの2つ。これは国家資格です。 ブローカーが会社で、セールスマンはそこの従業員。初めはセールスマンの資格をとりました。
江里口 不動産業からスタートして、FP業との出会いはどんなところから?
市丸 不動産では食えないなと思った。というのは、不動産業には波があって、だいたい10年サイクルなんですよ。
江里口 意外ですね。日本には賃貸業という安定し不動産業もあるんです。オーナーの代理として賃貸管理で手数料をとる。いわば第二の大家さんです。それで食べている不動産屋は何万件とあります。
市丸 ライセンスを取った当初は不動産売買や賃貸も考えましたが、私の周りの不動産業界がなにか肌に合わないように思えた。だったら他に何ができるかと考えて保険と証券の扱いを始めました。当時、ある保険会社の人が、日本でいうところの終身保険を掛け捨てと投資信託に分解しろというんですよ。たとえば月2万円の終身保険に入っているとします。その2万円を8000円と1万2000円に分けて、8000円で掛け捨ての保険を買い、1万2000円を投資信託に入れる。終身保険なんていらない。結果がどう違うかというと、当時の終身保険はあらかじめ決まった額面だけしかもらえないのに対して、分けていれば、掛け捨ての保険金がもらえて、投資信託も妻のものになる。だったらこっちのほうがいい。そもそも保険が何のためにあるかというと、家族への責任を果たすためです。子どもが生まれたり、家を買ったり、20年ぐらいは家族に対して責任があるでしょう。だったら、その間は掛け捨ての生命保険を買いなさい。ただし、自分が60歳になって子どもも大きくなったら、何で保険がいるの。今まで貯めた投資信託でもういいだろう。家族はもう守ったのだから、あとは自分の老後のためにそのお金を使いなさいと。私はこのコンセプトはすごいなと思いました。保険は投資ではない。家族のためというなら最低でいいじゃないか。このコンセプトがすごく気に入って、保険はこれだと思いました。みんな終身を売っていた時代に、このコンセプトで全部ひっくり返しました。
江里口 保険からFP的なプランニングに入っていったんですね。FPの資格をとったのはさらに後ですか?
市丸 そう、ずっとあとです。
江里口 アメリカのFPの状況を教えていただきたいのですが、6万人近いCFPがいると聞いています。ニックさんもCFPの登録をされているのですか。
市丸 私自身はCFPではありません。業務上必要ですから、会社にはもちろんCFPもいます。ただし、私は基本的に3つのライセンスを持っていればどんな波があろうと食っていけると考えています。保険、証券、不動産です。一つでは食えない。でも3つ持てば食えるでしょう。なぜなら、保険は安定しているし、証券と不動産はそれぞれ違った波がある。だったら3つライセンスをもっていれば生きていけるはず。これが私のコンセプトです。それに、証券会社では証券業務だけ、保険会社は保険業務だけだから、一緒にワンタイムショッピングできるとしたら、全部とれます。いま従業員15人全員が3つのライセンスを持っています。CFPは2人しかいない。私はライセンス自体は最低のものでいいと思っています。
江里口 CFP資格は必要ではないとお考えなのですね。証券の資格というのはどんなものですか?
市丸 私は資産家の顧客を10人ぐらい持っていますが、資産を管理しているだけ。証券業務では全米証券業協会(NASD)のライセンス、「Series 6」と「Series 63・65・26」を持っています。フィーベースで管理している資産の1%をもらうことができます。
江里口 日本はそういう仕組みがありません。
市丸管理している資産総額が20億円だったら2000万円が年間のフィーです。アメリカで証券業務をやっている会社は、だいたいこの仕組みでやっています。ほとんどの人はCFPは持っていないのではないかな。みんな お客さん は持っていますけどね。
江里口 ということは、アメリカでは資産運用のコンサルタント=CFPとは限らないのですね。CFPライセンスを持っていない人たちが、実質的なFP業務で顧客を押さえている、これはニュースですよ。
市丸 銀行で20年、30年勤めていると顧客ができますね。資産家を5人、10人持っている人は独立しますよ。その資産を預かればいいのだから。
江里口 5人でいいんですか?
市丸 5人で食えると思います。1人が5億、5人で25億でしょう。1%で2500万あれば食べられますよ。
江里口 金融機関に勤めていただけで、資格がなくてもいい?
市丸 もちろん1%のマネジメントフィーをもらうためには、私が持っている証券の「Series 63 または Series 7」は必要ですよ。これは法律上必要だから取るんです。でも、FPという資格を持っているかどうかは全然関係ない。ライセンスがあるから信用するのではなくて、あくまでその人との付き合い、その人が自分を信用してくれるかどうかです。
江里口 あなたの資産の1%を年間でもらいますよという契約を結ぶわけですね。運用の具体的な指示や手続きもやってあげるんですか。
市丸 すべてやってあげます。私のお客さんで80歳くらいの女性がいるんですが、その人は銀行が嫌い。なぜかというと、銀行員は異動があるから、せっかく自分のお金を預けていて融通がきいたのに、その人がいなくなってしまう。でも私は彼女と一生付き合って、手の届くところでいろんなことをやってあげるわけです。だから、銀行よりも私のほうが信用がある。
江里口 日本とまったく違いますね。日本では銀行マンをやめたらただの人です。FPを持っていたって関係ない。
市丸 アメリカは個人主義だからでしょう。人を信じるのもその個人を信じる。どこに勤めているとかは大きな問題ではなくて、一生懸命やってくれるとわかったらその人を信用するんです。天下のGMだってつぶれるんだから、会社なんて信じられないでしょう。個人でやっている人なら、その人が一生面倒を見てくれるという信頼関係が築けます。
江里口 日本では個人が信用されるのは士業といわれる弁護士、税理士この二つだけですね。
市丸 弁護士は法律を、会計士は税・会計のスペシャリストだけれども、人間的なことを勉強したわけではない。江里口さんの相続支援ネットの考え方に共感したのは、地主さんが相続で問題を抱えているときに、相続FPが指揮者としてまとめてあげるというところ。たとえば、ユニバーサルスタジオをアメリカから大阪に持ってこようと思ったら、火薬の問題など様々な制約が出てくる。弁護士は法律のことを調べてくれます。でも実際まとめようと思ったらコーディネーター、コンサルタントがいないと絶対ダメでしょう。それぞれの関係者のことを理解して、すべての事実を把握し、そしてまとめようとする力がある人。これはコンサルタントしかできないすごい仕事だと思う。
江里口 そういえば、私は何もライセンスないですよ。
市丸 江里口さんという人間性、そこですよ。
江里口 名刺にライセンスを何も書いていないんです。普通はみんな書いてます。FPとか。
市丸 それで成り立つというのはまさにアメリカ的ですよ。
江里口 ところで、ニックさんの会社は日本のFP協会の法人賛助会員になっておられますが、それはどんなきっかけで?
市丸 日本からアメリカの生命保険に入りたいという依頼があったんです。私の会社の日本語のウェブを見た人がアメリカで5億の保険を買いたいと言ってきた。日本は3億しか入れないそうですね。掛け金もアメリカのほうがずっと安い。ただし、我々は日本で営業できないから、あなたがアメリカに来て入るならいいですよと条件をだしました。いろいろ考えた結果、その人は両親を連れてアメリカまで保険に入りにやって来ました。美術が好きだからと美術館めぐりもしながら健康診断もして帰りました。それで5億の保険が成立して、我々にも結構なコミッションが入ったんですよ。これはすごいなぁと思いましたね。
江里口 それが日本との保険ビジネスの始まりだったんですね。その後どうですか?
市丸 オファーがあったのは3〜4人です。ラスベガス旅行をつけたりしましたけど、みんなアメリカまで来ましたよ。日本の資産家は守りですから、生命保険はいいツールになります。アメリカの保険は、死亡届を出したらすぐに保険金が振り込まれるのも魅力です。
江里口 この2年間、日本とアメリカの橋渡しをしてみて、日本のFP業界をどのように感じていますか?
市丸 なんでみんなお客を持っていないのかなと不思議です。
江里口 FPの資格を持ってても、客がいないどころか、FPとして開業してない人が大多数ですから。
市丸 資格をとったってお金にならない、人も助けられないのだったら、そんなの資格を取っても意味ないでしょう。
江里口 日本の資格はペーパードライバーなんです。車もないし乗るつもりもないのに運転免許を取るようなもの。
市丸 アメリカの感覚ではまったく逆です。資格は必要があるからとるもの。お客さんがいるからとるんです。必要なものだけでいい。大事なのは資格ではなくお客さん。お客さんを大事にするのがいちばんです。
江里口 ニックさんとしてはこれから日米の間でどんな仕事をしたいとお考えですか。
市丸 アメリカから帰ってきた日本人とか、そういう集団に対して何か提案できないかなと考えています。
江里口 あとアメリカ社会に住んでいる日本人に対しても。たとえば、日本にいるその人の親が亡くなって財産を相続したとき、手続きのお手伝いができればと思いますね。そんな橋渡しの仕事も増えるのではないでしょうか。そのコンサルは我々にしかできない。
市丸 反対にあちらで生まれた人が日本に戻ってきて財産を築くこともある。だから、これから10年ぐらいのうちに必要なことは増えてくると思いますよ。日本との往復は向こうから来るのが12時間、帰りが10時間、それほど苦痛とは思わなくなった。もっとクロースになると思います。もっともっと海外に出る日本人が増えるでしょう。それはいいことだと思う。日本人はもっと海外へ出たほうがいい。
江里口 日本人でありながら、外から日本を見ている視点ですね。
市丸 私は30年間アメリカで暮らして国籍もとった、今はアメリカ人です。でも、こうやって日本語を話すし、日本食を食べている。アメリカ人というのは、アメリカの国籍を持ってアメリカに忠誠を誓った、だからアメリカ人。それだけの共通項しかないんです。だから、言葉でお互いを伝え合わないとやっていけない。そんなアメリカと日本、それぞれにいいところがあります。私にはそれがよくわかる。日本人がアメリカに来たらアメリカのいいところを教えてあげたい。反対にアメリカ人には日本のいいところを教えてあげたい。そうして新しい文化ができたらいいな。私が30年アメリカにいて、出来ることといったらそんなことくらいでしょうか。
江里口 社会科の先生からアメリカへ行って、不動産屋をやって、不動産屋から証券・保険業へ、そしてFP業へと、まさに波乱万丈の人生ですね。
市丸 私もまさか人生がこうなるとは思ってもみなかったです。何かに動かされているのでしょうね。でも私はチャレンジが大好きです。常にチャレンジャーでいたい。
江里口 ニックさんのこれからの日本でのご活躍にも期待しています。日本のFP業界に新しい風を起こしていきたいですね。今日はありがとうございました。


インタビュー

相続が相続税の問題でもなければ、お金持ちだけの問題でもないことがよくわかった・・・。


1975年、千葉県生まれ。1994年、御茶の水女子大学文教育学部地理学科入学。平成不況の就職難の時代にあって大学1年から公認会計士を目指し、大学と専門学校のダブルスクール生活に。大学3年の秋、みごと公認会計士試験に合格。大学卒業後、在学中からアルバイトしていた太田昭和監査法人(現新日本監査法人)に正式入所。2000年、公認会計士第3次試験合格と同時に独立、平林公認会計士事務所を開設。税務は一切扱わず、ベンチャー企業のコンサルティングに特化したビジネスを展開。クライアントそれぞれの豊かな人生の実現のため、会計士の肩書きにとらわれず、人生まるごと幅広いコンサルテーションを行っている。女性士業のプロジェクト“ソフィアネット”をプロデュースするなど、「流れに身を任せている」という言葉からは想像できないほど精力的な活動を展開中。企業研修やビジネススクールなどの講演や執筆活動でTV、雑誌などへの露出が増える中、“美人過ぎる公認会計士”としてますます脚光を浴びている。
“物事をありのままに受け入れ、その当たり前に見えるものの中に幸せを見つけて感謝する”酸素派人間がモットーというが、ふわっとつかみ所のない印象の奥に感じられる堅実な存在感は、酸素そのもの。
主な著書: 『相続はおそろしい』(2009年・幻冬舎新書) 『5人の女神があなたを救う!ゼロから会社をつくる方法』(2008年・税務経理協会) 『1日15分!会計最速勉強法』(2008年・フォレスト出版) 『黄金の泉と7つの教え』(2004年・インデックス・コミュニケーションズ) 『会計についてやさしく語ってみました』(2006年・ダイヤモンド社) 『トコトンやさしい経理の仕事』(2006年・ナツメ社)

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平林亮子さん
公認会計士
プロジェクトコーディネーター
ソフィアネットプロデューサー
平林公認会計士事務所 代表



――3月に幻冬舎新書で出された『相続はおそろしい』、大反響ですね。相続に関して、こういう一般の人に語りかけるようなタッチで書かれた本というのは初めてではないですか。
平林 そうかもしれないですね。「相続が相続税の問題でもなければ、お金持ちだけの問題でもないとよくわかった」という感想をいただいたときは、すごく嬉しかったです。
――そのことを世間にこれほどPRできたのは快挙ですよ。「相続=相続税、だから財産のない自分には関係ない」と思ったら大間違い。この本の冒頭でズバリそういうことを書いておられて、的を射ているなと思いました。相続というとすぐ税理士さん、難しい税金の話と思われますが、納税する人はたったの4%。年間でいうと、残りの100万人近い人は税金には関係ない。だけど、まさにこの本にある通り、トラブルが起きる。この人たちはどうするのと。
平林 トラブルが起きて弁護士さんに相談に行くと、分割が決まってから来てくださいと言われるんですよ。分け方が決まったら分割協議書を書いてあげますと。その決め方はどうするのか、訊いても教えてくれません。
――みんな遺産分割に困っているから、相談に行くんですけどね。
平林 どういう判断で分けたらいいのか、教科書的なことは説明してもらえるにしても、じゃあ実際にこうしたらどうですかというアドバイスは誰もくれません。それでいて、実際に相続が発生してからではできることが本当に少なくなってしまう。それを皆さんにどう届けるかが難しいんです。
――まさにそこです。実はそういうところでお客さんはSOSを発信しているのに、受ける側の相続業界、税理士やFPがいまだに気づいてないんですね。平林さんがそこにすぐたどり着かれたのはすごいな。しかも、それを見事にPRされています。
平林 そこまでのPRというつもりもないんですけどね。相続に限らず、意外に「誰に何を相談したらいいのか」で悩んでいる方が多い。ベンチャー企業立ち上げのコンサルティングをやっている中でも、いざ会社を作りたい、ビジネスを始めたいといったときに誰に何を訊いたらいいかがまずわからない。それで困っている方がいるというところが、私自身のコンサルティングの中核になっています。
――平林さんは公認会計士でいらっしゃいますが、業務の中心はどのような分野ですか。
平林 ベンチャー企業のコンサルティングです。税金は一切扱っていません。ベンチャー企業のコンサルティングをしていると、どうしても社長さんの人生そのものに踏み込んでいくことになるんです。
――ライフプランですね。
平林 ライフプラン、それこそお金のことからご子息・ご令嬢の教育問題まで、なんだかもう家族ぐるみのおつきあいになってきます。そうすると、当然、この家をどうしようという話がでてきて、そうこうするうち、「事業承継も含めてどうするの?」となるわけです。
――事業承継は当然でてきますね。そのあたりから相続につながったのですか?
平林 事業承継というほどの規模ではなくても、「せっかく稼いできたけれど、これ、どうするの?」という話になるんです。お子さんに遺すのか、それとも使い切ってしまうのかと。遺すにしても、事業として遺したいという方もいれば、単に相続という形で引き継いでいけばいいという方もいます。そういう中で、今回取り上げたテーマが相続だったということなんです。
――人生設計の中での問題解決ですね。
平林 その通りです。かなり広い範囲をカバーできるのが相続という枠組みだったので、相続を取り上げたっていう感じでしょうね。
――この本で訴えている 遺産が少ないほどたいへんだ というのは、まさに相続の本質なんですよ。実際、盛り込んであるテーマも核心のところを全部取り上げて、それをフィクションとして上手くまとめていますね。実際、我々は案件として年間何十件と扱いますから、経験知としては何百件もあるわけですが、フィクションとして書くのは結構たいへんなものです。執筆にはかなりのエネルギーが必要だったのでは?
平林 はい。1週間くらいで書きあげた本もあるのですが、この本については1年近くかかりました。やはりフィクションに落とし込むというのは大変な作業ですね。守秘義務の関係でノンフィクションでは書けませんから。ただし、伝えたい要点だけ書いたのでは、ものの数ページでおしまいです。
――訴えたいことだけではつまらないわけですね。
平林 物語としても面白く、伝えたい要素を確実に詰めていくということで、かなり苦労しました。専門家の視点だけで書くと、一般の人にとってはえらくつまらない本になってしまいます。この本の中の相続の説明部分だけを抜粋したらほんの数ページでしょうが、そんなエッセンスだけ書いたものを読んでくれる人はいません。この本を本当に届けたい人に届けるにはどうしたらいいかと考えたとき、やっぱりフィクションとか、何かしら面白い形で書かなければ無理だろうと思いました。
――フィクション化していくには、想像力と取材と、それをフィクションに組み立てる知識が必要です。失礼ながら、会計人である平林さんがここまで書かれるには、相当勉強や取材でたいへんだったのではないですか? 不動産の実務的なところも、登記法から何からしっかり押さえておられますね。
平林 知識の部分でいえば、実はこのくらいのことは私の周囲の専門家は皆知っています。私は会計士試験で民法を選択しましたから、法律上で本のために新たに勉強したことはありません。取材もしてないですね。すべて、今まで出会ってきたお客様の事例や様々な専門家の方とのお付き合いの中で実際に扱ったことがベースです。会計事務所とはいっても、私のビジネスの基本はコーディネーターの役割。起業も経営も全部コーディネート業務が中心です。だから、本当にいろいろな方、いろいろな問題に出会うんです。
――本業はコーディネーターであると。
平林 そうですね。名刺にも書いているとおり、 プロジェクトコーディネーター として常に交通整理をしていくのが一番の得意分野なんです。
――では本当は資格も要らない?
平林 そういえばそうですね。もちろん公認会計士という肩書きなしでは出来なかったと思いますが、実際、資格がないとできないことをやっているかといえば、なくてもできることばかりです。監査業務以外、公認会計士でないとできないことはありませんから。
――公認会計士の資格は大学時代にとられたんですね。それは何かきっかけがあって?
平林 私は基本的に 女性は専業主婦がいちばん幸せ と思っています。だから、由緒正しき専業主婦になるためにどうしたらいいかと常に考えていました。時間を自由に使えて、お金もちょっと稼げるといいなと。そうなると勤め人ではダメ。だったら資格なのかなと、非常に単純な構図です。何の資格にしようか考えていたら、「公認会計士だったら頑張れば受かるぞ」と父にそそのかされたんです。面白そうなサークルもなかったので、部活代わりに専門学校に行くかな、くらいです。そんなに真面目に考えていたわけでもないんですよ。
――在学中に合格されたから、就職は会計事務所にということですね。
平林 はい。本当に会計士になろうと思うようになったのは、専門学校時代の出会いがいちばん大きかったですね。専門学校に教えに来ている会計士の先輩というのが、いかにも自由人なんです。
――ぷらぷらしてるわけですね。
平林 そうなんです! 結構いい年の男性が忙しいながらもぷらぷら生きてるんです。それでいて全然仕事にもお金にも困らない。ああ、そんなのがいいなと思いました。それなら、ぷらぷらしながら主婦もできそうだと。
――その波に乗ったのが今日のスタートだったのですね。サラリーマンとして会計人をやって、いずれお客をもって開業するという普通のパターンとはまったく違いますね。
平林 そうですね。おそらく物事の既成概念にとらわれていないのだと思います。独立するときにも、「独立するのに税務業務をやらないで個人事務所が成り立つものか」とさんざん言われたんですけど、そんなのはやってみなければわからないし、ダメならダメでいいじゃないかと。
――あっという間に独立されたわけですね。
平林 はい、大学3年のときに会計士に受かりまして、4年の秋から監査法人に勤め始めました。そこまで入れて3年ないくらいです。卒業してちゃんと監査法人に勤めてから、2年と3カ月でしたね。
――2年間勤務して会計士補の 補 が取れたら、はいさようなら。そこから平林亮子の ぷらぷら人生 が始まったんですね。最後に、相続について平林先生からのメッセージをいただけますか?
平林 うーん、メッセージですか。相続についてということではなく、すべてのことに対して何かを強く思っているわけではないんです。とにかくトータルで皆が人生少しでも幸せになればいいと願っています。その中にいろんな要素があって、起業もそうだし、相続もそう、お金も、結婚も、教育も、というだけのことなんですよね。私自身が何かしらのご縁で関らせていただいた方に、私が持っている智恵でお役に立つことがあれば、それを最大限に提供できる自分でいたい。その中の一つが相続であっただけで、別に相続で何というつもりはまったくありません。
――今のお話は極めてFP的ですね。ライフプランニングのいろんな要素の中で皆幸せになればいい、それをお手伝いしようと。そういう極めてニュートラルな立場でいながら、非常に熱いメッセージ性を感じます。
平林 熱いものを感じるとか、エネルギッシュですねとか言っていただけるのは非常にありがたいのですが、私自身が人から頑張れなんていわれたら、もう疲れてるのにやだよっていうタイプなものですから、メッセージなんてないですよ。そんなに頑張らなくていいじゃない、自分のやりたいことなんて考える必要ないじゃないですかっていうのが基本スタンスなんです。やりたいんだけどなかなかできないという方に対しては、もし私に何かお手伝いできることがあればとは思いますけど。
――それが一つのパワーなんですね。流れに身を任せて自然体でいるところにパワーが出ているというか。吹いている風をそのまま吸い込んでいるような。
平林 それがいちばん気持ちいいじゃないですか。
――ビジネスのやり方も自然体で?
平林 いっさい営業していません。基本的にすべてご紹介です。お客さんがいなくなったらやめちゃおうといつも思っていますので。運に身を任せて生きていますから、この運がなくなったら、全然だめなんでしょうね。
――まだまだこれから運が開くのでしょう。今日はありがとうございました。


特集

データで見る不動産最新事情

「不況とはいえ住宅購入意識の主流はやはり新築戸建住宅である状況に変化はない」

ようやく底入れ感の出てきた日本経済だが、不動産に関する各種データではマンションの在庫率の減少以外に、回復の兆しは見られない。本年は、賃貸物件に関して転居の比率が例年より落ちているという話を聞く機会が多く、賃貸事情に変化が見られるようだ。
不動産総合情報サービス提供会社のアットホーム株式会社が、独身で賃貸住宅に居住している三大都市圏在住の男女600名(18〜39歳で男女比は半々)に対して賃料に関する調査を本年4月21日〜23日に実施した。今回はその結果を基に、賃貸住宅の賃料最新事情を見ていきたい。
月収に対する家賃の割合は 平均37・7%
全回答者600名に月額収入(税金等を差し引いた残額)を尋ねた結果は図1の通りである。それによると、月収平均額は首都圏21万8775円、中京圏18万8033円、京阪神圏20万2851円で、全回答者平均は21万1722円と示された。20万円以上の方が占める割合を見ると、首都圏59・1%、中京圏47・5%、京阪神圏52・1%と示され、首都圏が他圏と比較して、収入価格帯の高い人が多く存在していることが浮き彫りになる。
次に居住している物件の家賃を示したのが図2である。それによると家賃平均額は首都圏7万391円、中京圏5万4579円、京阪神圏6万867円で、全回答者平均は6万6434円と示された。首都圏と中京圏では約1万5千円もの差が見られた。7万円以上の物件の占める割合を見ると、首都圏47・6%、中京圏14・7%、京阪神圏27・7%と地域差が明確に示されている。
さらに月額収入と家賃の回答結果を基に「月額収入に対する住居費(家賃)の割合(住宅係数)」を算出した結果が図3に示されている。それによると、住宅係数の平均(※1)は全体では34・7%となり、首都圏35・5%、中京圏33・1%、京阪神圏33・3%となり、家賃ほどの地域差はあまりないという結果となった。
しかし、住宅係数30%未満の割合を見ると、首都圏39・7%、京阪神圏41・3%であるのに対し、中京圏は49・1%と高いことが示され、中京圏における住宅係数に対する意識の強さが見てとれる。
(※1)ここでの住宅係数の平均は、回答者別に住宅係数を算出したものから導いている。家賃の全体平均と月額収入の全体平均から算出される住宅係数の値とは異なる。
月収に対する『理想の家賃割合』は29・4%
月額収入に対しての現在の家賃の割合について、どのように感じているかを単一回答形式で聞いた結果が図4である。それによると
回答者の59・9%が『割合が高い』(「割合が高いと思っており、できれば負担を減らしたい」32・7%と「割合が高いと思うが仕方がない」27・2%の合計)となった。地域別にみると、高いと思う割合は首都圏59・8%、中京圏52・5%、京阪神圏62・9%となり、首都圏と京阪神圏では家賃を割高と思う率が高いことが示されている。
また、現在の月額収入に対して理想だと思う家賃の割合を聞いた結果を示したのが図5である。それによると、全体での平均は29・4%となり、実際に支払っている家賃の割合の34・7%に対し、5・3ポイントの差があることが明らかとなった。
一方、本当に条件が良く気に入った理想の物件があった場合、どれだけの家賃を負担しても良いと思うかを聞き、月額収入に対する割合を算出したところ、全体での平均は36・5%になった(図6参照)。
このように、理想の家賃の割合は、実際に支払っている家賃の割合より低いものの、納得のいくものであれば実際の家賃の割合よりも高くても負担して良いという意向があることが分かった。
住宅の購入を意識している人は5割
今後の住宅の購入に対する意識を尋ねた結果が図7である。それによると『購入を意識している(「具体的に考えている」3・3%、「具体的に考えていないが、いずれは購入したい」23・7%、「資金面で可能なら、購入を考えたい」22・7%の合計)』は49・7%となり、全体の半数が住宅の購入を意識しているという結果になった。
次に、住宅の購入を意識している298名に購入を意識しているのは、どのタイプか聞いた結果が図8である。それによると、1位「新築一戸建て」45・0%、2位「新築マンション」27・9%、続いて「中古マンション」13・4%、「中古一戸建て」11・4%となった。地域別で見ると、「新築一戸建て」が首都圏(198名)では38・9%となり、他の地域(中京圏(28名)64・3%、京阪神圏(72名)54・2%)よりも低いという傾向が認められた。首都圏では新築一戸建ての価格が高いということと都心のマンション暮らしに魅力アリと感じる人が多い等の理由が考えられる。(編集室)


連載

連載4:都心回帰のセカンドライフは人の暮らしをどのように再生するのか

本誌編集長 江里口吉雄
「都心回帰後のライフプラン」
最近のセミナーでの講演内容はちょっとした傾向がある。相続専門家として講演依頼があるのだが、いろいろと打ち合わせていくと最終的にライフプランを盛り込んだ内容にしてほしいという結果になる。ライフプランといえばFP業務の中心的テーマであるのだが、私が提唱するライフプランはずばりセカンドライフとしてのライフプランだ。セカンドライフの一番の関心事がいわゆる自宅の住み替えや買い替え問題だ。もちろん建替やリフォームもありその自宅活用の選択肢はいろいろだ。
ライフプランの中でどこに住むかは重要な問題でもある。同じ街に住む場合も多いが、郊外の1戸建から都心のタワーマンションに住む場合も多い。「都心のタワーマンションの住み心地とはいかがなものか」。憧れてはいても、実際にそこに住むことができるのか疑問に感じる人もいるようだ。
都心に住むとまず郊外では味わえない時間と空間が展開する。映画ファンや演劇などの興行的なものに趣味を持っている場合はたまらないほど楽しめる。また、グルメや大のワイン好きという場合にも便利な街である。都心のほとんどにはミニバスが走り自宅から街のどこにも100円で移動できる。郊外の街にすんでいる場合にはそうはいかない。郊外の街の住まい方は車社会だ。車がないと買い物もままならない。しかし、都心の街の生活は車とは無縁になってくる。徒歩圏でも十分生活守備範囲が揃っているが自転車でちょっと走ればどこにも行ける。
趣味を大切にするセカンドライフを過ごすにはいろいろな選択肢がある。田舎暮らしや海外のロングステイもそれなりに魅力があるものだ。しかし、日常生活のなかで遊びや趣味の仲間と会うために、電車に乗って1時間以上もかけて都心に出て行くのはだんだん負担になってくる。そうなるともっと交通の便がいい場所に住み替えたくなるのは人情。いわゆる都心のタワーマンションの生活は魅力的かもしれない。いや、タワーマンションに限らずそれなりの立地条件のエリアであれば、生活空間は飛躍的な展開をすることになってくる。都心の夜景はほぼ13階以上のフロアからの眺めからその世界は一変する。さらなる高層階になればその深みにどんどんハマっていく。
都心生活のすすめ・・・ それは昭和回想
郊外から都心のマンション暮らしを始める時にいくつかの注意点がある。まず、郊外の住宅からは想像を絶するほどの狭い居住空間であることにまず諦めと慣れをスタートしなければならない。具体的には郊外から都心のマンションに住み替えた(買い換えた)場合を例にすると、土地50坪の土地に建物40坪(130平米)の居住空間は、コンクリートに囲まれたわずか50平米ほどの超狭小空間になる。俗にいう1LDKの空間だ。それはたまらんという場合には新築や築浅の物件は諦めるしかない。ならば中古ということになるが、土地代価格といっても築30年以上の物件であれば80平米以上を取得することも不可能ではない。ただ、中古となると耐震性の問題やらバリアフリーでない構造とかいろいろ問題もでてくる。古くてもビンテージ物件になると新築と変わらない物件もあるのでその価格形成は摩訶不思議だ。
都心の生活は何もマンションとは限らない。築30年以上の老朽木造建築の建物が付いた土地を購入するのもひとつの選択肢だ。まだまだまた都心の一等地には木造建築が多い。ビルの谷間からバスを降りてちょっと路地裏へでると楽しいものである。バス停からバス停の間の路地裏散歩は至高の時間を過ごすことができるかもしれない。ちょっと小高い丘の街の路地裏の木造空間で風鈴と線香花火を楽しむのも昭和回想ともいえるが懐かしい時間の流れでもある。まさに「時間が止まる世界」を体験できるのが都心の生活でもあるのは確かだ。


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