Appoggio vol.12 2008 autumn
セカンドライフを明るく生きていくために自分の相続を捉える
税理士法人タクトコンサルティング 代表社員
株式会社タクトコンサルティング 代表取締役 本郷尚さん
+ファイナンシャルキャスター 波多野里奈さん
+本誌編集長・江里口吉雄
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ラジオ番組「ハッピー相続のすすめ」の放送から体験した1年間を再現してみると、あらたなメッセーが生まれる。
江里口 ちょうど1年前にファイナンシャルキャスターの波多野さんとラジオ日本で ハッピー相続のすすめ という番組を始められましたね。相続・不動産業界でTACTの本郷先生といえばプロ中のプロの専門家です。その本郷先生が一般のお客さん相手のラジオに登場されたのは、私にとっては衝撃でした。これまで「相続=相続税」と捉えられがちでしたが、番組では相続そのものをどうしたらいいか、非常にわかりやすくお話されていました。そもそも ハッピー相続 という言葉は、ご自身でお考えになったものですか?
本郷 そうです。相続にはアンハッピーが多いですからね。
波多野 ハッピーに相続を迎えるにはどうしたらいいか というのは本郷先生のテーマそのものですね。
本郷 ほうっておけば、相続=アンハッピーであるということがあまりにも多い。無関心なまま放置していれば、アンハッピーに突入してしまうわけです。そこを未然に防ぐために、それなりの知識なり情報なり、心構えをという意味で、あの番組を企画しました。
江里口 やっているうちに変化などは?
本郷 ありますよ。やってみて感じたのは、非常にいろいろな専門家がいるんだなということ。いろんな立場の人がたくさん出てきました。プロフェッショナルな人ばかりです。
波多野 それぞれの立場があって、解決方法もみんな違っていましたね。
本郷 本当にすごいなと思う人がたくさん出てきました。実践している実務家ですから、言葉の重みとか迫力は全然違います。ある弁護士さんがこんなことを言いました。遺言書が必要な人は財産が少ない人だと。これは結構名言ですよ。少ないともめないかというと、そんなことはなくて、少ないからもめるんです。
江里口 世間の常識とは逆ですね。あるからもめると思っている。そういう、これまでの常識ではないことを暴露したというか、オープンにしたという点でも功績は大きいですね。私がやっている相続FPスクールに来られた税理士さんがこんなことを言っていました。税金がかからない人からも相談や問い合わせがあるが、税理士の立場では商売にはならない、逆にこれは何かビジネスになるのではないかと。
本郷 番組に出ていただいた川崎の司法書士さんは、相当な件数の相続案件を扱っている方でした。コンビニエンスストアみたいな営業だと言っていましたね。年中無休で夜も土日も。納税は必要なくても家一軒とそこそこ財産があれば、名義変更の手続きからあれこれとやらなくてはいけない。サラリーマンは勤め帰りや土日に相談したいわけです。逆にその時間しかない。それが仕事になるわけです。
江里口 まだまだ士業全体ではそれに気づいていない?
本郷 士業という先生業なんて思うから大間違いなのであって、サービス業なら当たり前のこと。相続FPや芳賀先生の相続アドバイザー、曽根さんの相続コーディネーターは、士業でふんぞり返っている人たちよりサービス精神は旺盛なはず。そうあってこそ成り立つ話です。
波多野 毎回いろんな立場の方がゲストで来られるので、毎回毎回が新鮮で眼からウロコの連続でしたね。
本郷 プロがきて、はっと思う話をぽろぽろ出すわけです。僕にとってもすごく勉強になりました。後見人の問題でも、実際には奥様や長男が後見人になっているわけです。介護をしながら、財産目録を提出したり、報告書を出したり、監督人にチェックを受けたり、大変なんです。プロが後見人をやるのなら一定の報酬をもらうけど、身内では報酬もない。しかも、3年も5年も、あるいは10年もの長い期間です。そうすると、後見人はへとへとになってしまう。言葉しか知らない人はそんな制度があるとしかわからないけど、実務をやっている人はその大変さがわかります。実際には本当にいろいろなことが起きているんですよ。後見人は今後ますます増えますよ。高齢化社会というのは簡単に死ねないわけで、体が不自由になったり意思能力がなくなるという状態が長くなりますから。
江里口 番組では、さまざまなプロのゲストを通じて改めて相続をみていったのですね。
本郷 なるべく違う分野が専門の実務家に来ていただきました。実務家というのは実際にやっているから分かるわけです。教科書に書いていない部分。たとえば、相続でいちばんよくあるパターンですが、不動産をとりあえず相続人で共有にして売却して分ける。理屈はそうですが、現実はそんなに簡単ではない。いがみ合っているかどうかは別としても、みんなが集まる機会すら多くはない。亡くなって葬儀があって四十九日があって一周忌がある。集まる機会はそれくらいですよ。その機会に、司法書士さんがよく言う「本人確認」をしなくてはいけませんね。本人にちゃんと、あなたは売っていいんですね、価格はこうですよと確認する。実務は汗を流さなくてはいけない。関係者が集まったところで一気にやらなくてはいけないんです。もし海外にいる人がわざわざ帰国するとしたら、そこで本人確認と委任状をとるしかない。本当のプロでなければできないじゃないですか。知っているではなくて出来る人が必要なんです。
江里口 実行できる人ですね。
本郷 単なる弁護士、税理士、司法書士では解決になりません。いろんなプロフェッショナルが出てきて一気に解決する。それが仕事ですよね。
江里口 そうすると、そういった専門家をとりまとめてコンサルするプロが必要ですね。
本郷 そうです。全体を企画する立場の人。それが相続FPであり、相続アドバイザー、相続コーディネーターであるわけです。あるいは士業の人であってもリーダーシップをとれる人はやるでしょうね。相続を理解してもらうための切り口として、よく相続前、相続中、相続後の三つに切って話しました。
江里口 現在、過去、未来ということですね。いちばん問題が深いのはどこですか?
本郷 三つ全部がわかって初めて相続がわかる。相続中にもめたことと、相続後にそれぞれの人たちがどういう生き方をしたかという答えが見えないと、実は相続前なんか一言も言えません。だから、教科書で覚えて、どろどろした部分や最後の結末まで見ないで終わりにしている人には相続前なんか語れない。
江里口 人の人生をみていなければわからない部分ですからね。
本郷 遺言書を書きましょうというのは対策としては大事ですよ。遺言書を書いた後に遺言がどう実行されたか、相続後その人たちがどう思ったか、そこまで担当者がずっとみてくれなかったら、全然責任をとってないじゃないですか。あるいは、建築業者がアパート建てませんかと言って、銀行が融資をして相続対策をしました。でも結末を見たの? 10年後、20年後に相続が起きたとき、実際にどうなったのか。借金させてアパート建ててさよなら、仕事はおしまいというのでは、後ろが見えていないわけです。
江里口 みんな自分の専門分野から対策を提案しますが、その時だけで「はいさよなら」という流れが圧倒的に多かったですね。誰も、長い時間軸の上で相続人であるお客さんの相続前後、将来をみていなかった。
本郷 相続対策といっていながら、時間軸まで見ていない。時間軸をトータルで最後まで見ることができるのは誰かといったら、先ほど言ったリーダーシップを取れるプロフェッショナルしかないでしょう。その人は能力も人間的にも相当高いレベルが要求されますね。
江里口 そのリーダーシップを取る人、コーディネーターでもアドバイザーでもFPでもいいんですが、これはサラリーマンでは無理でしょうね。
本郷 異動もあるし、組織にいたのでは難しい。組織の目的が売ることであって、商品を売るために雇用されているとしたら、そういうバランス感覚はもてないでしょうね。
江里口 実は、こんなことがあったんです。私よりちょっと年上の方の相続の相談を受けているのですが、あまり年が違わないから江里口さんが先に死んじゃう場合もあるよねって。大手のコンサル会社なら、10年後にその人が転勤しようが死んでしまおうが、また別の若い人がくるだろうけど、江里口さんに頼んだ場合、江里口さん90まで生きる?なんて。
本郷 ヨーロッパ系のプライベートバンカーは基本的に担当者を変えず一生付き合います。もっといえば、お父様が70代だとすると50代ぐらいの担当、お子さんが 40代ならこちらには30代の人をつけて、両方でファミリーとして付き合わせる。いざ相続が起きたときに「初めまして」というのでは、付き合い方にバランス感覚が欠けている。これは税理士も同じですね。会長会長っていって息子なんかと顔をあわせない。いざ相続になると、今度は息子が相手だから胡散臭い税理士というか、煙たい存在になってしまうんです。そういう失敗を繰り返しながら覚えていくしかないでしょう。
実はね、波多野さん、あの番組で取り上げなかったことがあるんです。まだ熟してはいなので、番組では言えなかった。
波多野 どんなテーマですか。
本郷 今までの相続対策というのは、相続人のための対策でした。相続を迎えるにあたって、財産分けをうまくやりましょうね、だから遺言書を書きましょうね、税金大変ですよ、節税しませんか、分割はこうしましょう、ああしましょうね。相続人がハッピーになるための対策。それはそれでいい。でも、自分がある程度の年齢になった今、被相続人の立場からの相続というテーマに行き着いたんです。僕はある人からすごい言葉をいただきました。日本を代表するような経営者、日経新聞の「私の履歴書」に出てくるような人です。その人がね、「本郷さん、俺は頑張ってここまで来たんだけど、死ぬときに預金残高が最高って面白くねぇな」って。それが、ものすごいヒントになったんです。僕の親父も義理の母も、もったいないもったいないで、使わずに遺してくれました。挙句の果てに税金を払いましたけどね。戦前生まれの親はみんなそうです。今までの相続対策は相続人のための対策だった。相続人のための相続対策というのは死ぬことを前提にした対策です。死んだときにどうなるかということ。これからは違う。リンカーンの言葉を借りると、 本人の、本人による、本人のための資産対策。明るく楽しく元気よく生きるための対策。番組でも相続後の話をしましたね。そのときに遺さなくてもいいんじゃないのとか、使っちまいなよとか、親や周りに感謝しながら明るく楽しく元気よく、サムマネーを持って生きていきなさいよって言いましたね。お客さんの中には、「あなたが死んだらこうなりますよ」と説明すると、「死ぬためのことなんかいうんじゃないよ」って言う人がいるんですよ。
江里口 だから言いにくいというのもありますね。
本郷 言いにくいし、本人がのらないんですよ。これからは、明るく楽しく生きるための対策として、それにちょっぴり相続があればいいんじゃないと。だから、僕は平気で家を売ってしまいなさいと言います。家を守るために生きることないじゃないですか。あなたが楽しく暮らしていきたいなら、一軒家なんか売り飛ばしてお金に換えて、安全なマンションで暮らす。寂しければ、子ども家族の分も買って呼び寄せたらいい。資産価値があろうがなかろうが関係ないんですよ。自分にとってどういう生活がしたいかだけ。それで税金対策になるかどうかなんて関係ない。キャッシュを何億も持っているとまともに税金がかかりますよと銀行は言うけれど、そんなこと知ったことじゃない、自分が楽しくのんきに暮らしたいんです。
江里口 いま団塊の世代は、その傾向が出てきていますね。
本郷 その通りです。さっき言ったように、死んだときに預金残高最高なんて何の人生なんだよと。アリは一生懸命働いて蔵の中にしまいこんで、そのまま死んじゃうわけでしょう。自分が食べないまま死んじゃう。
江里口 今までの世代はそうでしたね。
本郷 それを前提に相続対策を考えているわけです。財産を減らさないように、おうちの財産を遺してそのまま継いでいく、そういう価値観があった。だけど、最近お客さんの言葉から出てくるものはそうではない。財産は自分のために自分が使うんだと。ただ高齢化社会だから、90、100まで生きます。場合によっては、相続人である子どもが70、80になってしまう。それではもらい損なってしまいます。だったら、贈与しちゃえというわけ。僕の事務所の贈与の数はすごいですよ。僕が平気でそういうからね。90まで生きるのはいい。明るく楽しく元気に生きてほしいんだから。ただ、それでは子どもは面白くないから、先に贈与しましょう。お前にアパートの家賃半分あげるから、その代わり母親の面倒をみろよとかね。
江里口 これからはぽんぽん使って、残った相続財産は現金にという流れですね。
本郷 相続人だって現金が一番嬉しい。でも、財産をどうするかというのは、その人の生き方というか価値観です。相続人のためではない。あなたのため、あなたがどう生きたいのか。人の目なんか気にするなよと言いたい。
江里口 これからの相続に対する新しいメッセージですね。
本郷 僕はこう言いたい。あなたが生きている間が花ですよ。好きなように明るく楽しく元気よく生きてください。それにはサムマネーが必要ですね。人に配ったって、贈与したっていいじゃないですか。寄付したっていいですよ。こういうメッセージを送りたいんです。実際、僕の周りではこういう動きが起きている。でもどちらかというと進んでいる人たちですね。最先端の人は、従来のような相続人のための相続対策ではおかしいのではないかと気づいている。そういう生き方もありますよと広く知らせていきたい。
江里口 そうすると、 ハッピー相続のすすめ・その2 は、シニア世代がこれからいかに生きていくかという人生観、哲学ですね。
本郷 相続対策は死ぬことを前提の対策です。そうではなくて、あなたが楽しく生きていくにはどうしたらいいですか、そのための資産対策をしませんかというほうがいい。
江里口 われわれFPの領域になりますが、セカンドライフの提案ですね。
本郷 まさにそうです。それが同時に相続というテーマにつながってくるのではないかな。
波多野 9月いっぱいでラジオ番組は終わりますが、これからも本郷さんのこの新しいメッセージを広く伝える機会を作っていっていただきたいですね。
江里口 相続もセカンドライフの一部として考えていくことになりそうですね。相続FPの活躍の場が広がりそうです。今日はありがとうございました。
笑顔に出会って幸せを感じたら笑顔を書いていた・・・
1940年東京生まれ。俳優・演出家として活躍。1993年に心筋梗塞を患い、生死をさまよう。3度の臨死体験から、大自然と人々の慈しみによって生かされていることを知り、深い感銘を受けた。以来、笑顔で合掌する仏さまの絵を描き、石仏を彫り始める。
岡倉 石朋(おかくら せきほう)さん
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――快楽ですね。
岡倉 れはもう! それで、『死ぬ前に何かしたいことあるかなぁ』と考えたら、『ああ、今まで会った人にお礼を言いたい』と思った。僕はそんなこと考える人じゃなかったのが、これまた突然なぜだか考えてしまった。そう思った瞬間に、過去の風景と過去の人が出てくる。
――走馬灯のように出てくるっていいますけど。
岡倉 はい、そうです。一人ずつ出てくる。会えて嬉しかったっていうとニコニコしているわけ。一人ずつ20歳くらいになるまでやったら、もう嬉しくて胸なんかすごく熱くなってる。52歳だから52年分一人ずつ、何千人だか何万人だかわからないんだけど、全員。それが至福の体験だった。だけど、そこで電気ショックでこの世に意識がまた戻るわけよ。電気ショックっていうのはきつくて疲れるものなのに、僕は臨死体験で至福で幸せそのものなの。それで看護婦さんが来たときに、『看護婦さん、僕幸せなんです』っていきなり言ったから、看護婦さんもびっくりしただろうね。僕にしてみれば、すごくリアルな体験だから、看護婦さんにもお医者さんにも、一生懸命それをしゃべりたくてたまらない。
――それから絵を?
岡倉 自分がなんか変わったような気がした。なんか変わったなっていう感覚があって、絵を描いてみたくなった。何かを具体的に描くというのではなくて、女房にクレヨンを持ってきてもらってスケッチブックにただ描いてる。そうしたら、どうしても自分が描いた絵に見えない。自分の細胞のくっつき具合が変わった気がしました。人が変わったというのではなくて細胞のくっつき具合が変わった。だんだん描いていくと仏さんの絵になってくる。合掌している絵なんだね。そうしたら、看護婦さんがそれを欲しいって言い出した。他の看護婦さんも欲しいと言う。まあ、みんなで元気付けてくれようとしているのかなぁなんて思っていましたね。退院してから、もう一回臨死体験があったけど、それはまた次の機会にしましょう。
――退院されてから本格的に絵を始められたんですか?
岡倉 スコップで20回土を掘る以上の仕事はしてはいけないと言われたので、やることがない。当時は神奈川に住んでいて近くにメノウが転がっている海岸があったので、そういう自然石を使ったアクセサリー屋でもしようかと思いながら、一方で絵を描いていました。友だちが来て僕の絵をいいだ悪いだという。でも、僕が気に入った絵を誰も誉めない。そのうち、絵がいいか悪いかは人が決めるんだ。こんな簡単なことはない。いっぱい描けばどれかはあたるかもしれない。展覧会やろうみたいな話になった。
――展覧会はどちらで?
岡倉 鎌倉の円覚寺です。お抹茶を出す塔頭があってお茶を飲んでいたら、いいお座敷があったので、ここを展覧会で貸してくれませんかと聞いてみた。小さい絵を持っていたから、こんなもの書いてますって。僕の素性も何も知らないのに、いいですよと言ってくれたんです。とにかくどの絵がいいかもわからないから、千の仏展 にしようと思いました。一枚の絵にいっぱい入っているのもあるし一つのもあるけれど、とにかく千の仏さんを描こうと。お座敷じゅうにやまほど置きました。それが縁で次のお寺が決まり、ここでやりませんか、あそこでやりませんかという話になって、今日に至っています。
――この広重美術館の喫茶室にも、岡倉さんの絵が至る所にありますね。
岡倉 僕は、自分が笑顔で至福体験をしたから、笑顔を描くことが目的なんです。絵描きの勉強はしたことがない。中学のときに絵の先生と喧嘩して以来、絵なんて描いたことがなかった。だから何も知らない。筆も墨も絵の具も何もわからない。でも、千の仏を描いたら売れちゃったのよ。こんなにいい収入があるのかって、びっくりした。これはアクセサリー屋になるよりはいいかもしれないと。そしたら引き合いがあって次々とやる場所が決まりました。
――こっちから働きかけなくても話がくる?
岡倉 病気をしたことによって学んだことはね、その前の生活では、僕が道を開かない限り道は開けないと思っていた。ところが、自分で道を開いたのではダメだと病気をしてわかった。風の流れに任せるのだと。
――この雑誌の読者はセカンドライフを迎える団塊の世代ですが、その世代に伝えたいメッセージはありますか?
岡倉 いい大学を出て大会社に入ったエリートの人たちが定年退職すると、みんな口をそろえて毎日が日曜日です、たまにゴルフやってます、うちでは煙たがられてます、この三つをしゃべる。ああ、この人たちには年金をやっちゃいかんって思うね。人生そのものがどこかにいなくなってしまっている。僕はサラリーマンをやったことがないのでわからないけれど、自分がどこに向かって生きているか、何のために生きているか、見つけられずにサラリーマンを終わるときついんだろうな。
――年金生活を送る、ほどほどの収入・財産を得た人たちの生き様がないんですね。何をしたらいいかがわからない。裕福な夫婦が世界一周旅行1500万とか、親の財産を処分して、2億、3億で東京のど真ん中の高層マンションの最上階を買って住んでみたり、でも人生を満喫してるかどうかはちょっと…。
岡倉 それは人生そのものとは関係ないこと。お金をどう使うかってだけのこと。自分の人生がどうありたいかということにはまったく知恵をもっていない。幼稚園のときからそういうレールになっている。それこそ幼稚園の時代から、夢はなに?って、職業をきくんだよ。バスの運転手さんとか、看護師さんとか、それは職業でしょう。何のために看護師さんになりたくて、バスの運転手さんになりたいか、人生どうありたいかが抜けている。職業の選択と人生の夢とは違うのに。子ども時代からずっと親も学校もみんなそういうことを要求していくんだ。みんなそれが人生だと思っている。ここの学校で授業を頼まれたとき、『みんな、自分が死ぬときに自分はどういう人だったって言われたい?』『死んでいくときに、あいつはどういう奴だったって言われたいの?』ってきいてみた。いい人だったとか、やさしい人だったとか、根性のある奴だったとか、そういうことを言われたいっていう。ここではすごく正常なんだね。でも、今の日本も世界も、人生がどこに向かっているのか、いつも形ばかりに追われている。これからのセカンドライフは、自分の人生何をしたいのかを考えないといけない。職業で考えたり、田舎暮らしなんて考えるとわけがわからなくなる。名刺がなくなったものだから、今度は別の何かをつくりたいって形だけの人が多い。
――田舎暮らししてますとか、陶芸やってますとか、日本画を勉強してますとか、英会話とか。
岡倉 僕よりずっと絵がうまい人もいるんだよね。でもその人たちが絵は描く目的をもっていない。絵を描きたい、うまくなりたい。でも何のためというのがない。人生というのは、何のために生きているのか、どこへ向かって生きているのか、どういうふうに自分の人生を終わりたいのかということがないと、いくら形を決めても意味がない。60を過ぎて新しい種を蒔くのなら、いちばん大切なのは自分はそこでどういう種を蒔くのか。それがないと、いくら形を追いかけてもダメ。だからって、どうやって生きたらいいか僕には説明できないけどね。僕の場合は、ともかく少なくとも笑顔を書きたい。僕は笑顔に出会って幸せを感じたから、そういう絵を描いて、それを人生にしようと思っています。
――臨死体験を経て、岡倉さんは新しい生き方を見つけられた。まさにセカンドライフですね。今日はたいへん興味深いお話をありがとうございました。
データで見る相続最新事情パート2
国税庁は本年7月に相続税の延納と物納に関する統計資料を発表した。それによると、延納・物納とも申請件数、金額が激減していることが判明した。相続税の納税手法としてかつては脚光を浴びていた延納・物納だが、もはや過去の手法と言わざるをえないほど、数字は落ち込んでいる。
○平成19年度の物納申請件数はわずか383件でピーク年度の2・4%弱
国税は金銭による納付が原則であるが、相続税については、財産課税という性格上、延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合には、一定財産による物納が認められている(相続税法第41条〜第48条の2)。
かつて相続税を現金で払えない相続人はとりあえず物納申請をし、その後、何年かかけて物納の条件整備をして収納されるよう努力をするか、土地を売却して現金納付をするという手法を採ることが少なくなかった。
しかし、平成18年度の制度改正で、物納申請の延長期限は相続税の申告期限後1年と区切られ、相続発生後に条件整備をしても間に合わないというケースも想定され、物納申請件数が大幅に減少する事態に陥ってしまった。
減少理由はそればかりではない。改正された金銭納付困難理由書に基づいて計算すると、本業以外に不動産所得のある人、所得が高い人などは、たとえ現金や換金性の高い相続財産がない場合であっても、納税額のほとんどが延納金額で占められることになり、物納金額が極めて小さくなってしまうという計算結果になることが少なくない。これも物納申請件数の減少理由の一因と思われる。
図表1を見てみよう。平成19年度の申請件数は対前年度比で、37%弱と3分の1程度までに落ち込んでいる。ピークの平成6年度と比較すると2・4%弱と3%にも満たない。
申請金額で見ても、平成19年度の申請額235億円は、対前年比で49%強と半分を割っている(図表2参照)。ピークの平成4年度と比較すると、1・5%程度と激減している。図表1、2をグラフ化したのがそれぞれ図表3、4である。申請件数、金額とも年を追うごとに激減している様子がよくわかる。ある有名な相続FPの言葉を借りると「物納の時代は終わった」と言えるかもしれない。
○延納も激減の時代に突入
バブルの頃もしくはバブル直後に発生した相続の納税では、「とりあえず延納申請して、相続財産の家賃収入を延納金額に充当して分割して払いましょう、もしくは地価が回復したら土地を売却して延納金額の残りを現金で納付しましょう」という手法が見られた。この手法は、当初見込んでいた家賃収入が減少したり、空室率が高くなって延納金額が支払えなくなったり、地価の下落が止まらず、売るタイミングを逸したりと、散々な結果に終わることが少なくなかった。
国税庁の公売物件情報では、この種の悲惨な理由で相続税納付ができずに、公売となってしまう相続物件が未だに数多く掲載されている。
さて、その延納だが最優遇の利子税が2・3%と市中金利よりも低いにも関わらず、申請件数は激減している。図表5で確認してみよう。
平成19年度の延納申請件数は3222件で、対前年比では68%強であり、物納ほどではないが、大幅な減少率を示している。ピーク時の平成3年度と比較するとわずか6・8%程度に過ぎず、かつての「とりあえず延納」という姿勢はもはや見られない。
また申請金額で見ても平成19年度の金額1193億円は対前年比で83%弱と少なく、ピーク時の平成3年度と比較するとわずか4・9%程度に過ぎない(図表6参照)。図表5、6をグラフ化したのがそれぞれ図表7、8である。申請件数、金額とも年を追うごとに激減しているが、物納と比較すると減少スピードは速く、平成9年以降から延納の利用状況が芳しくない様子がよみとれる。利子税は低いものの、延納は利用したくない、という相続人が増えているようだ。
(編集部)
秒読みに入った相続税の大増税
税収確保で実施される不当な制度改正
資産家の皆さんは、まもなく巨額の相続税の支払いで頭を悩ませることになる。早ければ、今年の年末あたりからそれに気づくであろう。相続税の増税が行われることが、確実と言える理由には2つある。ひとつは「新事業承継税制で税負担を軽減した分の財源を確保するため」で、もうひとつは「バブル経済の崩壊以後の地価下落と相続税の緩和措置で、相続税の持つ富の再配分機能が薄れている」ことにある。相続税の増税の引き金となっているこの2つの根拠について、その信憑性を探ってみたい。
○新事業承継税制は誰も良い思いをしない
2007年12月に自民党が決定した「2008年度税制改正大綱」に「中小企業の経営の承継の円滑化に関する法律」(経営承継円滑化法、図1参照)の制定に伴い、中小企業の経営者のみが適用できる「相続税の納税猶予制度」を創設することが盛り込まれた。
中小企業の経営者のみが適用できる「相続税の納税猶予制度」とは、正しくは「取引相場のない株式等に係る相続税の納税猶予制度」と呼ばれているもので、非上場会社の経営者の事業を承継する相続人が、経営者(被相続人)から相続等によりその会社の株式を取得し、その会社を経営していくことを条件として、その相続人が本来納付しなければならない相続税額のうち、相続等により取得した議決権株式等に係る課税価格の80%に対応する相続税の納税を猶予する―というものだ。
この制度により相続税が納税猶予された事業承継相続人は、相続税の法定申告期限から5年の間に、代表者でなくなったりすると、経済産業大臣の認定が取り消されて猶予税額の全額を納付しなければならない、などといった厳しい条件付だが、いずれにしても同制度の創設(創設予定は2009年度税制改正)により、税収が減ることは間違いない。
○基礎控除は半減、税率も引上げへ
よって、第169回国会(今年1月から同年6月まで開会)の新事業承継税制を議論している委員会で、非上場株式の相続税について80%納税猶予する代わりに、その財源として、課税ベースの拡大や税率の引上げ、計算方法の改正でかなり増税を行うべきではないか、というやり取りが委員の間で行われた事実がある。減税するにはそれなりの財源を必要とするが、所得税や法人税など他の税目を増税することができないことから、80%納税猶予を適用しない資産家から相続税を多めにいただこうというわけだ。
当時、噂レベルで政府関係者の間に「基礎控除を2分の1にして、最高税率を10%引き上げ、課税最低限は引下げた上で累進税率のメッシュを荒くする」という情報が流れた。政府は、昭和60年代の頃、100人のうち7・9人に相続税が課税されていたことから、昭和62年度税制改正で基礎控除を2倍にして課税割合を翌年引き下げた経緯がある。したがって、逆に増税するときにも課税のしくみをいじることが十分に考えられる。
○政府税調が音頭をとって増税連呼
次に、もうひとつの相続税の増税理由「バブル経済の崩壊以後の地価下落と相続税の緩和措置で、相続税の持つ富の再配分機能が薄れている」について語る。この言葉は、政府税制調査会(首相の諮問機関、香西泰会長)の委員たちから出ている意見だ。富の再配分とは、「一人が築いた財産は、その人が亡くなるときに社会に還元する。そして、貧富の差を解消する」ことを意味していて、それが相続税の大義名分となっている。そもそも、相続税は明治時代に戦費調達のために作られた税制なのに、戦後、口当たりの良い大義名分が立てられ、いまなお生き続けているシロモノだ。
この政府税調の委員の意見などをうまく盛り込んだ相続税の増税を予感させる記事があるので、以下、ご紹介する。
○相続税 課税を強化 地価下落受け、政府・与党検討
政府・与党は19日、2009年度税制改正で相続税の課税を強化する方向で検討に入った。基礎控除額を見直すことで課税範囲拡大を検討するほか、最高税率(現行50%)の引き上げなどの検討を進める。
バブル期の地価高騰を受け、相続税が支払えず、自宅を手放すケースが続出したことを受け、政府は基礎控除額の拡大や最高税率引き下げなど納税者負担の軽減を図ってきた。88年度以降、最高税率を75%から段階的に引き下げたほか、基礎控除の範囲も従前の2倍以上に拡大した。しかし、バブル崩壊後に地価が大幅下落したため、課税対象者は死亡者の7%前後から現在は半分近い4%程度に減少している。
7月から税制改正の議論を始めた政府税制調査会(首相の諮問機関、香西泰会長)では『相続によって、資産格差が次世代に引き継がれる可能性が増している』と課税強化を求める声が強まっている。政府税調は、昨年の税制改正答申でも、『遺産相続時に、その一部を社会に還元し、(社会保障の)給付と負担の調整が必要』と指摘。『大幅に緩和されてきた相続税の負担水準を放置することは適当でない』と提言した。
一方、税制改正論議を実質的に取り仕切る自民党税調(津島雄二会長)も『時代に合わない相続税の課税水準の見直しは避けられない』(幹部)としており、今秋の税制改正に向けて相続税の課税強化策の検討を進める構えだ。
90年代はじめに基準年の83年度の3倍以上に高騰した地価(三大都市圏、商業地)は、2000年以降、83年度を下回る水準に下落。納税負担の緩和措置だけが温存された結果、遺産を引き継いでも相続税が発生しない世帯が急増している。
【赤間清広】毎日新聞 2008年8月20日 東京朝刊
どうだろうか。この記事を読んで、これから毎晩眠れない夜を過ごす人がどれほど出てくるのだろう。空恐ろしい思いがする。
地主さんにすすめる生命保険提案とは
「保険は、相続対策に向いていますよ」そう言って、仕事で会った生命保険会社の営業担当者は、地主さん向けに渡しているという冊子を見せてくれた。自信をもって勧めていることは、相続専門の担当を配置するなど、積極的な取組みから知ることができた。
その時に、相続税を節税するために、保険に入っている70歳男性の話を教えてもらった。契約内容を簡単に紹介すると、60歳代のときに5億円の終身保険に加入、保険料は5回払で、割引されて1回につき1億円弱ずつの支払い、契約者・被保険者は本人、受取人は長男といったオーダーメイドで設計された保険である。
相続対策では、終身保険を勧めることが多い。いつ起こるかわからない相続には、保障期間が終身の方が安心ではある。保険料を安くしたいのなら、掛け捨て、保険料が更新時に変ることを了承すれば、定期保険でも利用価値はあると思う。ただ、終身保険のほとんどは、保険金を年金形式で受取れて、節税効果が期待できる。
70歳男性の場合は、35年間の年金受取りで契約しており、長男には年金受給権に対する「権利の評価額」に相続税がかかってくる。評価額には相続税法24条が適用されて、年金受取総額の30%に軽減された評価額に対し、税率が40%の控除額1700万円で相続税が計算される。一時金で受取ると、税率50%で控除額4700万円なので、この終身保険の相続税だけでざっと計算しても、約20%に税負担を軽減できたことになる。長男には、雑所得がかかってくるが、総合課税されるので、税額はそれ程多くならずに、問題はないとの話である。また、保険料を払うための現金が必要なことを考えて、もっと保険金額を小さく設定しても効果はある。
保険は、医療や生活保障に備えるだけでなく、納税資金対策・節税対策・遺産分割対策に、マルチに対応できる特性をもった金融商品といえる。一部の保険を除き、責任開始日以降ならすぐにでも、保険事故が起こると、契約時に指定された受取人は、約束された保険金を現金で受取れるからである。受取人は複数の指定も可能、その上、法定相続人1人につき500万円が非課税になるなどの相続税法上の特典もある。
土地などの不動産は、売却して現金に換えるまでに時間を要し、期待通りの金額を取得できるとは限らず、預貯金は、すぐに目標の金額に達することが難しい。
保険の活用方法で一般的なのは、契約者(保険料負担者)と被保険者を被相続人、死亡保険金受取人を相続人にするケース。 財産のほとんどが不動産で、長男に家督相続させたい地主さんの場合は、受取人を長男に指定して、保険金のなかから、他の相続人には現金で代償分割を行うこともできる。
納税資金対策として、毎年、被相続人から相続人へ、保険料相当分を現金贈与して、相続人はもらった現金で保険に加入する方法もある。保険料は、年間110万円まで非課税となり、相続人を契約者と受取人にすると一時所得となるので、保険金額が大きくなるほど、相続税で計算するよりも有利である。相続財産を減らせて、税負担の軽減も可能になる。
注意して欲しい点は、保険と一口に言っても、種類が多様化しているので、保障内容を十分に把握してから自分に合った保険に入ること、余分な保険金額を設定しないこと、途中で解約をしないことである。大事なのは、保険は健康でないと加入できないことである。いずれにしても、なるべく早めに、相続する人と金額などを具体的に決めておくという対策が望まれる。
地主さんによっても持っている資産は違うので、相続と保険の関わり方は様々。場合によっては、保険を活用するだけが、ベストな相続対策でないことも多いにあり得る。しかしながら、これからは、相続問題をかかえた地主さんに、相続対策には保険が有効であることを知ってもらい、選択肢を多くしてもらうためにも、生命保険を提案した方が良いのではないだろうか?
古川 悦子 ふるかわ えつこ
ファイナンシャル・プランナー。FP事務所「フェリースライフ」代表。鹿児島県生まれ。青山学院女子短期大学卒業後、通商産業省秘書課勤務を経て、生命保険会社の保険事務、経理事務、コールセンターでお客様相談担当など20年間勤務後退職。2006年4月FP独立。現在のFP活動は、マネーエッセイ・保険コラムの執筆、保険セミナー、個別相談、雑誌・新聞の取材など。専門の保険分野では、FP向けのセミナーや保険会社の営業用・保険事務ツールの企画などプロの方のサポートも行う。今後は、中立な立場のFPとして、保険会社での経験を、お客様と保険のプロ双方へ情報発信するのに加え、保険と異分野との関わり方も伝えたい。OMCカード・日本SOHOセンター・野村證券会員向け保険コラム執筆・監修、共同通信社に記事掲載。営業教育用ツール「告知の重要性」の企画、金融経済新聞「喜怒哀楽」に自身のエッセイも掲載。「保険選びネット」連載中。