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遺産相続(相続税・登記・手続き・調整)相談事例

過去:相続のあった相続人の支援


農家相続における遺産分割の難問解決は...

代襲相続人と出会い


「はじめまして、次男です」と最初に口火を切ったのは、被相続人の次男でした。続いてその次男に促されるように挨拶したのが、今回の相続ドラマの主人公である被相続人の長男の子つまり被相続人から見ると孫のYさんでした。  まだ20台後半の独身の青年です。相続人が孫というとすぐに養子縁組?と想像するのですが、実は被相続人の長男は数年前に他界していていわゆる代襲相続人です。その代襲相続人が本家の後継ぎな訳です。そして、次々に各相続人の紹介と挨拶が続き最後に「相続士の江里口です。」となり・・・それは東京の郊外で乳牛業をしている農家の相続案件としての最初の出会いのことでした。  当相続人(図1)は全部で8人です。牛を飼っている農家といてもその周辺ではずばぬけてりっぱな屋敷でありその母屋は数寄屋造りの本格的な木造建築の住宅でまさに本家の家という風格のあるお屋敷です。  このYさんを紹介していただいたのは、地元の不動産やさんのNさんでした。NさんとY家とは先代のときからのお付き合いで相続が発生しまずYさんに相談したのでした。私は、Nさんにはその半年ほど前に別の相続案件でお世話になっておりこれが2件目の紹介でした。  農家の相続は資産の大半が土地(農地)ですから一般的には財産規模が大きいわりには比較的手間のかからない?ことが多いのですが、このYさんはそうではないということが最初の出会いですぐに気が付きました。  Yさんは農家相続なのですが、実はこの相続を契機に農業を実質的にはやめることになったのです。牛を飼うということがどれほど大変かは今までのご苦労されたお話を聞いていくうちに容易に理解できることでした。実はこの何年間1日たりとも家を留守にしたことはなかったようです。
 こうして無事、最初の面談を終え次回訪問するときに相続専門の税理士をお連れすることを約束してYさんの家をあとにしました。

納税のための売却可能な土地がない


最初の面談後に紹介者のNさんの案内で早速資産の大半である土地を現場確認をしていきました。土地は全部で8ヶ所です。まず
(1)ご自宅と
(2)駅前のレストラン
(3)マンション
(4)アパート
(5)農地(調整地域)
の計4ヶ所です。
 また実質的な現金は3000万円ほどです。総資産は約8億円そして債務が2億円でしたのでざっくり計算した相続税は配偶者税額軽減後に6000万円前後(表1)となり、これは土地を売らないと相続税が払えないということはすぐにわかりました。  しかし、マンションやアパートは当然に担保が入っています。無担保の土地は自宅とレストランそして市街化調整地域の農地だけですから、そうは簡単には売る土地がないということがその日の土地調査ですぐに判明しました。  土地売却候補地として、現場をよく見てなんとか考え出したのが駅前のレストランの敷地です。全体で490坪あり駐車場の一部80坪ほどがうまく分割できそうで売却が可能です。とりあえずは、ほっとしてその日の現場視察は終わりました。  もちろん相続士として後日、役調(やくちょう)としての市役所の都市計画課・開発指導課の本格的な調査や法務局での公図・謄本の入手と現調(げんちょう)としての土地の実測を実施したのはもちろんです。

売却予定地の変遷ドラマ


2回目の訪問で税理士とのうち合わせも無事に終わってからYさんにレストランの駐車場の土地売却の了承をいただき、早速レストランの本部の担当者にアプローチすることになりました。すると先方からは「・・・事情はよくわかりました。協力しますよ。」と内諾を得てまずは納税問題は解決?ということになりそうだったのですが、ふと相続士としての良心が急に浮上してきました。
 「ほんとうにここを売っていいのだろうか。この土地はY家の先代からの土地でそれも市街化地域の一等地。まちがいなくここは残す土地ではないのか・・。」と考え直し、あらためてYさんとじっくり話をしていきました。すると「実は、もう農業をやらないのでなんとか畑から売却したい。」とやっと本音の話が聞き出せました。そうはいっても調整地域の農地ですから農家に売るしかありません。
 さあ、そうなると紹介者のNさんの登場です。Nさんはすぐに農地売買の動きをとりました。農地がはたして売れるのか。するとすぐに「買いたい」という農家があらわれました。ところが話をつめていくといろいろと条件がでていつの間にかその話は立ち消えしてしまいました。
 それから1ヶ月が過ぎた頃Nさんから電話が入り「やっと畑が売れそうです。農家2件から話が入っています。坪3万円として1反1000万円くらいでしょうか・・・」ということでした。畑は3ヶ所で3反余(1000坪)ほどありましたので全部売れれば3000万円となり納税資金としては現金と合わせればなんとか間に合いそうです。

遺産分割の変遷ドラマ


 農地以外に売るところがない今回のケースの場合に農地が畑と牧草地合わせて全部7反(2100坪)ありますので運良くすべて売却しても6300万です。それはそのまま納税資金で消えていってしまいますから遺産分割としては3000万円の現金を分配することになります。
 一人数百万ですが、はたしてそれでいいのかどうかがよくわかりません。土地売却のひとつの目処がつき始めてきた頃、相続人との3回目の会合で、本格的な遺産分割の話が飛びだしてきました。被相続人の配偶者であるおばあちゃんの希望として「次男や娘にはある程度の財産分与をしたい・・」ということになりました。
 なにしろ納税資金をどうするかで悩んでいたところへちょっと多めに財産分与してほしいと言う要望です。実は、相続士としての考え方としては農家相続ということで本家のYさんがその財産の大半を相続していくものと思っていたのですが、Yさんが農業をやめることで他の相続人の財産分与の話が最初からあったようです。
 ではいくらくらいの分与があればいいのか、そこがなかなか聞き出せないのです。そして、しばらくしてある日一通のメールが届きました。次男からです。「折り入ってご相談があります・・・。実は今の家を買い替えたくもう土地も探して契約するばかりになっているのですが・・」と言う相談です。
 事情があって今の住宅を買い替えるためどうしても住宅資金がほしいとのことでした。金額は言ってこないのですがどうも2000万円ほどかな?と思えました。直々に相談をうけいろいろと聞いていくとごもっとも思えるところもありこれはやむえないかな?と同情するばかりです。
 されど納税もままならい現在あらたな問題を突きつけられたようでほんとに困惑するばかりです。また振り出しにもどって駅前のレストランの土地を売却することになるのか。またまた壁にぶつかりました。いろいろお話を聞いていくと別の相続人の離婚問題や住宅建築資金やなんだカンダと次々と出てきました。
 最終的に最低いくら必要なのかとつきつめていくとなんと1人1000万円以上ということになり全部で4000万円ということになってきました。それも具体的に相続人それぞれの思惑が違い次男については2000万円必要とする事情もあります。これは大変なことです。現金はなんとかあるにはあるのですが・・さあ、どうするか。いよいよ難問にぶち当たりました。

ほんとに農地が売れるのか


農地売買はほんとに難しいものです。買いたいと話があってしばらくすると立ち消えになってまた買いの話が別からもでてきていろいろ問題がでてきます。そうこうしてあっという間に相続から6ヶ月が過ぎようとしたころ朗報が飛び込んできました。

 Nさんから電話があり「幼稚園が牧草地(表2)を運動場として買いたいようです」これはすごいお話です。調整区域ですが学校法人ということで農地転用の問題はクリアできそうですからすぐに飛びつきました。なんと1億2000万円で売却の申し込みがはいりました。

 農地はすべて売ってしまいたいという相続人全員の希望を一気にかなえるものです。農地5ヶ所の5反(7000m?)の中で、牧草地Bの売却だけでなんとか遺産分割が無事に出来る目処がでてきました。しかし、油断は禁物です。

 この牧草地を売却する前提で遺産分割協議書を作成していくわけですから万が一この売却が流れた場合には、相続人は全員でこの牧草地をただ共有しているだけでになってしまいます。納税はもちろんのこと相続人の夢と希望を無惨にもうち砕く最悪のシナリオになってします。

 案の定しばらくは、買い手の幼稚園の学校法人としての各種の許認可と農地転用許可には時間のかかるものです。「契約までもう少しお待ち下さい」とNさんからは何度か申し訳なさうな電話をいただきながら、あっという間に時間は過ぎ申告と納税期限と迫ってきた4月の初旬にやっと無事契約をすることができました。まさに滑り込みセーフといった感じです。

試行錯誤の円満な遺産分割


一口に円満な遺産分割といっても納税問題と現実の土地の売却が絡むとそれは大変なドラマの展開です。今回の農地売却はまさに運のいいお話です。相続人同士でまったく争っているわけではなくても現実的な最低限の金銭的な遺産分けにも問題が山積みとなることがあるわけです。
 相続人の思惑とはなかなかすぐに表にでてきません。面談を重ねる内に徐々にいろいろなことが表目化してきます。相続人同士がお互いに遠慮していますし、特に農家相続の場合には本家に遠慮して一人一人の思惑が違っています。
 納税問題だけに気をとられているととんでもない相続問題に発展してしまいます。早期に相続人の切実なる思惑を聞き出していかに円満な遺産分割を実現するかが相続士の実力の見せ所です。今回はたまたま運良く農地売買が申告前にうまく間に合った成功事例ですが、そういった事例が毎回成功するとは限りません。
 運も相続士には必要なのかもしれません・・・。遺産分割と納税の現実的な問題解決のキーワードはまさに不動産そのものです。今回は不動産やさんの紹介案件であり、実際の売却の実務はすべてNさんへお任せしたのですが、農地売買の難しい局面をいっしょに乗り越えて行くにはやはり相続士も不動産に明るくないと途中で挫折してしまいかねません。相続士が不動産に精通していなければならない所以です。

遺言書の内容では納税ができない事例


広大地(こうだいち)の迷走・・・


国税庁のデーターによれば平成19年度の被相続人は全国で111万人である。そのうち相続税の課税対象は全国4万7000人で4.2%ほどである。高額な相続税を払った相続人はそのほんの一部の方にすぎないということになる。アパートやマンションオーナーはその高額な相続税を払う相続人の代表者ばかりだ。いわゆる節税や土地活用といった言葉の対象は、この4.2%ほどの地主さんということになる。高額な納税をする地主さんの相続財産の大半は、アパートや駐車場といった不動産ということになる。それも自宅や駐車場用地・市街地農地といった地積が500m?を超す広大な土地でもある。  財産評価の基準になる土地の価格とは時価である。時価とは市場で売れる価格のこと。通常の市街地で売れる土地とは、マイホーム建設のための土地になるわけで、一般的には30坪から50坪程度の土地ということになる。財産評価通達における広大地とは、都市計画法第4条第12項の開発行為により「土地の区画形質の変更」で道路を入れることになる。道路を入れればその土地の有効宅地率が下がる。最終的には、その有効宅地が売却対象になるため売却価格は3割から5割ほど下がることになる。  改正前の評価通達ではその開発図面を要求したためにほとんどこの通達は生かされてこなかった経緯がある。そして、2003年7月にこの広大地評価は大改正となった。改正後の広大地評価が摘要になるかならないかは、評価が半分になるかならないかということで、土地の評価額においてまさに天国か地獄かともいえる。相続の現場では、土地評価をめぐって広大地の迷走が続き悩ましい問題であることには違いないのである。そこで、地主さんの典型的な相続事例としてBさんの相続問題を考えてみよう。

相続税が払えない?・・・。


 アパートオーナーでもあるBさんの相続は、10年前に父親の生前に作成していた公正証書遺言があることで相続問題は何ら問題がないはずであった。しかし現実には、相続税の納税額が当初の想定よりも5000万円も足りないということが判明した。Bさんは、元々は農家だったがそれも祖父の代まで、親の代にはアパートオーナーになっていた。  相続財産は、預貯金はあまり多くなく、相続財産の大半が土地と建物である。具体的な相続財産である土地の内訳は、自宅1000m?・ファミリーレストランの土地1500m?・時間貸し駐車場の土地500m?と月極め駐車場の土地1200m?とアパート建築地400m?の5ケ所で、相続財産(図表2)の総額は7億円である。ここで問題となった土地は500m?以上のいわゆる広大地である。広大地とは、土地活用した場合に都市計画法でいう開発を必要とする土地のことであるが、開発道路を造成して分譲住宅地にする土地ともいえる。 東京の郊外に住むBさんの土地はそういった500m?以上の広大地が多いのである。問題は、この広大地評価の規定が平成15年に改正されたのだ。Bさんの遺言書は10年前に作成されたもので、この平成15年の広大地評価改正の衝撃をまともに受けた事例ともいえる。

致命傷となったファミリーレストラン


Bさんの相続財産である土地は、広大地の見本のようなものでもある。Bさんの相続における最大の土地評価の問題は、500m?以上の土地の広大地評価のことでもある。実は、相続税における国税庁の財産評価通達における改正広大地評価は、5年前に大改正されたのだ。そこには、思わぬ落とし穴が用意された。単純に500m?以上の土地全てが広大地になるというものではない。  この広大地評価には、その除外となる要素が次のとおり用意されている。(1)大規模店舗とファミリーレストランの建築された敷地 (2)間口が広く道路に接していて奥行きがない土地 (3)マンション適地(4)容積率300%以上の地域 となる。これらの(1)から(4)の実際の評価は、現場では難しい判断を要する。  まず最初にBさんの土地には「ファミリーレストラン」の土地1500m?がある。この土地は、遺言書を作成された時点の改正前の広大地評価では概ね4割ほど評価減になる予定であった。しかし、その後の広大地評価の改正では、ファミリーレストランの土地は広大地除外となってしまったのだ。なぜ、ファミリーレストランの土地が広大地評価の除外で評価減がないのかは摩訶不思議といわざるを得ない。  土地評価の基準はあくまでも時価であるから、「売っていくらになるか」というということを考えれば、土地有効活用としてのファミリーレストランがどうして除外になるのかとても不思議でもある・・。なぜなら、ファミリーレストランのチェーンで今日本中を探してみても土地を購入して経営する直営店舗はまず皆無と思われる。通常、出店企業のファミリーレストランは建物の賃貸か土地の事業用定期借地権かのどちらかである。土地購入しての出店は聞いたことがない。賃貸されたファミリーレストランの土地は、相続等が発生したあと、最終的には建物が解体されその土地はまたあらたな土地利用がされる。郊外の街道に面したファミリーレストランの跡地が相続後売却され戸建ての分譲地になっているケースも多い。土地活用というものは、時代とともに変化していくのである。

混沌としているマンション適地の判断


もう一つのBさんの土地は、マンションが比較的多い場所にある1200m?の月極めの駐車場である。広大地評価の適用除外として、このマンション適地があるのだが、通達は、「明らかにマンションに適している」あるいは「マンションしかない」と解釈するのが通達の読み方である。
 一般的にはこの「マンション適地」は難解で調査が難しい。改正前の広大地評価では、容積率500%以上のいわゆる駅前の商業地域が高度利用地域ということで広大地評価の適用除外となっていたが、5年前の改正で容積率300%以上は広大地評価除外と明記された。
 しかし、マンションと戸建て分譲が混在する地域も含む?と解釈されかねない場合もあるので、このマンション適地の判定は極めてグレイゾーンの評価になってしまうので注意が必要である。Bさんの土地周辺を調査していくと周りのマンションの全ては、土地有効活用としての賃貸マンションであることが判明した。マンション適地でいうところのマンションとは分譲マンションを意味するので、Bさんの土地周辺に分譲マンションは1棟もないということが明らかになり、「マンション適地」ではないと判断された。

開発が必要でない土地とは


 Bさんのこの土地の形状は、道路と接する長さは25mで奥行きが20mほどの地積が500m?の土地。Bさんの時間貸しの駐車場の土地は、ひょっとすると広大地評価が除外されてしまう「羊羹切りの土地」ともいえる。羊羹切りの土地とは土地を羊羹切るように区画分けすることである。広大地の定義である「開発をするとした場合に」該当するのかそれとも広大地の除外規定にある「羊羹切りの土地」であるのかが不明である。  ここでこの土地が「開発を必要とする土地」なのかどうかの判断が問われるわけである。そこで、市役所の都市計画課で調べてみるとBさんの土地は、開発指導要綱では最低区画面積は100m?である。そこで、この土地を羊羹切りで区画をとると奥行き20m×間淵5mの土地となってしまう。これでは建物が建たないことになり、そんな土地はだれも買わないため経済的合理性が失われてしまうことになる。まともな区画にするためには開発をして道路を入れるしかないといえる。  開発をするということになれば、この土地は広大地となる。もちろん、郊外の土地で最低区画面積200m?ということになれば羊羹切りということもでてくる。また、逆に都心の住宅地であれば、開発指導要綱の最低区画面積は60m?の場合が多いので、その場合には奥行き20m×間淵3mの極端に細長い土地になる。これは明らかに宅地とはいえず当然に開発が必要となり、経済的合理性がないということで羊羹切りは無理と判断できる。結論として、Bさんのこの土地は、「開発を必要とする土地」という判断で、広大地ということになる。

遺産分割協議をやりなおしてハッピー相続


結果的にBさんの広大地と思われた3つの土地は、駐車場の2つは無事広大地として評価することができたが、ファミリーレストランの土地は広大地の適用は除外となってしまった。3つの土地の評価額は、(図表5)のようになった。  Bさんの土地評価は、路線価も10年前と比べて1割以上も上がっていたが、幸いにも土地の時価もこのミニバブルで高値の取引となり当初想定された相続税の5000万円アップ分は結果的に高値の土地売却で納税が可能となった。むしろ、土地の時価取引が上がったことで10年前に遺言書の内容ではそれぞれの相続人の遺産分割のバランスが崩れてしまった。Bさんはあらためて遺産分割協議書を作成して、無事に円満に相続を終えたのは言うまでもない。やはり、相続はハッピー相続であることがベストである。  いずれにしても広大地評価の解釈が今後どこへ行くのか不透明な状況の中で、相続人を支援する遺言・相続のアドバイスは、不動産を知ることからはじまるのであり、特に広大地評価についての判断が問われて来る時代ともいえる。

遺言書がなかった事例


自分と血を分けた姉がいたことを父の葬儀ではじめて知った・・・


OLで28歳のAさんのショックは想像以上であったようだ。それは、Aさんの父親が交通事故で亡くなり、葬儀の席で、見知らぬ女性2人が遺族の席に座っていたのである。その女性2人の存在を教えてくれたのは叔母であった。葬式の夜にAさんの母が後妻であることや隣の席にいた女性がAさんの異母姉妹であることを葬儀の夜にはじめて知ったのである。それは、まさに壮烈な遺産争族のはじまりを予想される前兆のようでもあった。 「実は葬儀の後、母は精神的に参ってしまい入院してしまいました。相続のことこれからどうしたらいいのか・・・」と困惑と不安を隠せない表情で相談してきたのはまだ20代の独身女性のAさん。Aさんの父親の相続財産は不動産と預貯金だけである。金融資産が3000万円ほどで、不動産は自宅マンションと賃貸マンションの二つで6000万円ほど。相続財産は合わせて9000万円になる。この金額は相続人が4人ということで基礎控除が9000万円となり、相続税がかかるかかからないかというところでもある。 Aさんにとっては相続税の問題よりも、ある日突然現れた異母姉妹の存在がとても気がかりだったようだ。Aさんのお母さんは突如事故死したことに精神的に強烈なショックを受け葬式後すぐに入院してしまった。Aさんのお母さんは毎日「財産を取られる・・・」とうなされて欝状態が続いていた。

一通の内容証明ではじまる争族問題


そんなある日「内容証明が届きました・・・」となった。それは異母姉妹である2人の姉の代理人である弁護士からの遺産分割請求の内容証明書であった。弁護士からの文面ではあるが丁寧で礼節のある内容にほっとする反面、真意はずばり遺産を法定相続分下さい」と読みとれた。 弁護士が介入してきたことでいよいよ争族問題が急浮上してきたわけでもある。Aさんが母親から聞かされていることは「今の財産の全ては夫婦二人で裸一貫働いて築いた財産で、先妻には離婚時に財産の全てを渡してあるので今更財産を渡したくない・・・」というものである。 しかし、残念ながら現在の民法では先妻の子である2人の姉妹へそれぞれ遺産の1/6となり、2人で合わせて全遺産の1/3の遺産を受け取る権利があるのも事実である。もちろん遺言書があればいわゆる遺留分だけになるので1/3が1/6の半分に減額されるのだが、突然の相続の発生でその準備もしていなかった。

早めの和解でハッピー相続を実現


弁護士を代理人にしたAさんの相続問題は半年ほど時間が経過したころ無事に解決できた。争っても時間の消耗と知ったAさんは、遺産分割の係争に入ってしまった現実の解決策としては早期解決を目指すために最終的に法定相続分による遺産分割で和解した。若いAさんにとっては今回の遺産分割の問題解決を「人生の一つの大きな出来事でもあり、またとても貴重な体験と勉強ができました・・・」と語った。
遺産分割後、Aさんとお母さんは無事、自宅のマンションと不動産収入源である賃貸マンションを相続することができた。しかし、金融資産の3000万円すべてが相手方の相続となりAさんと母親には現金なるものはまったく残らない結果となった。
しかし、Aさんのご両親が築いてきた自宅と唯一の不動産収入源である賃貸マンションを相続できたことは、結果的にはハッピー相続で終わったと思われる。Aさんにとっての次の課題は、自分の姉たちといつかはほんとうの和解をして再会できることを夢みている。いつか、その願いは実現できると確信をもっている。
このAさんの事例では、遺言書があれば遺留分だけの請求ということで、もっと現金が残ったはずであるが、相続問題の本質は遺産分割だけではない。親族の複雑な関係とその中での人間ドラマも関係してくる。相続はやはりハッピー相続でありたいと願うばかりである。

現在:今まさに相続が発生した相続人の支援


税理士を紹介してほしい...


 それはすっかりご無沙汰していたWさんからの電話からはじまりました。「相続になったので、税理士を紹介してほしい」という電話です。電話があったのは葬式も終わり1ヶ月ほど過ぎた頃でした。なんとWさんとはその電話があるまで実は2年ほどご無沙汰していたので恥ずかしながら相続があったことは全く知ることもなかったのです。
 Wさんとは久しぶりの再会でしたが、Wさんと出会ったのは数年前にある銀行の資産担当のFPの方の紹介ではじまりました。ところが1年後には、その銀行の担当者も移動になりその後、気が付いたら私がその銀行の支店長にWさんを紹介をしていたという関係になっていました。
 当時のWさんとの出会いの頃は、相続対策としてやれ土地活用だなんだかんだとおきまりの提案書をもっていきました。Wさんは、自宅と自営の工場と残りの土地は全て駐車場と遊休地としていわゆる一切のアパート経営等の有効活用?はしていませんでいた。アパート経営にまったく興味を示さないWさんの当時の本音は将来の相続の納税資金はどうすべきかということの1点でした。納税問題は、当時FPとしての提案は物納すべきかな?という結論でしたので相続問題はそのままになっていました。<

広大地評価減で物納より売却が有利に...


 Wさんの資産内容はすでに全て掌握していましたので、私が手配した相続専門の若い税理士のO氏の第一声は「すでに資料が全部ありますから何も調べることがないですね・・。図面も書いてくれたので助かります。あとは遺産分割と納税ですよね。」というもので、まさにその通りです。
 「まあ、とりあえず測量だけは先にすすめていきましょう。・・・」と、それほど切羽詰まった状況もなくあっという間に時間が過ぎていきました。ところが、納税額が判明して物納する土地は・・各相続人の土地の遺産分割は・・という絞り込みに入ってきました。相続人4人が一同に集まり遺産分割をどうするかの話が本格的になってきて最終的に、 (1)遺産分割は土地を売却して現金化すること
(2)納税は物納でなく売却資金で...
ということに自然になりました。

 納税については、すでに広大地評価<財産評価基本通達24-4・広大地評価(500m?以上の開発を必要とする道路等の公共用地を想定した評価)>(図1)等で評価減することがわかりましたので、物納よりも売却が有利と判断していました。

土地売却の落とし穴?


ここまでは簡単なお話なのですが、実は売却には大きな問題があることが判明しました。土地をあらためて役所の開発指導課で調査していくと売却予定したいくつかの土地の中で、売却面積が1000m?にもかかわらず相続人全体の一団の土地として3000m?以上のため売却後の開発には、公園6%の確保が必要となることがわかりました。
 通常500m?以上の土地は当然に開発許可が必要となりますが、一般的には3000m?以上でなければ公園等の公共施設の提供は出てきません。ところが、相続の土地の場合には一団の土地には一部売却でもその全体の一団の面積にて算定する指導です。よく調べて見るとその一団の土地でも残す土地と売却する土地と相続人を変えれば一団と見なさないという指導であることがわかり難を無事逃れました。

 実際の売却予定地1800m?で公園6%(3600m?×6%=240m?)が必要とする開発用地では、売却金額もずばり12%減以上(図2)になってしまい話になりません。実は、こういった開発指導に関することをよく知らずに簡単に遺産分割してあとでとんでもないことになるケースが多いようです。

土地売却のプロセス


相続における不動産物件は、一般的な○○不動産・・・といった駅前の仲介不動産業の分野ではないのです。駅前の不動産やさんはエンドユーザー専門の賃貸と中古物件等の仲介で、相続からでてきた開発案件は通常扱いません。

 いわゆる不動産ブローカー(注2)が動くきわめて特殊な取引になります。こういったブローカー物件は、街の不動産やさんでは流通せずにブローカー間で情報が飛び交います。物件情報がFAXでブローカー間を交叉していきます。街の人はもちろんまったく気がつかないのですが、油断するとすぐにこのブローカー仲間では「有名物件と化して」情報がグルグル回ります。

 ブローカーの中には地主が依頼した不動産業者である「ぶつもと」(注3)を飛び越して、地主のところへ夜討ち朝駆けで攻めてくる業者もでてきます。こうなってくるともう大変です。地主とその相続人はもう夜も寝られず仕事にもなりません。

 地主(相続人)の本音はずばり「人知れずすみやかに一発高値で売ること」です。実はこれがなかなか難しいのです。いやむしろ不可能?なのかもしれません。ここでいう「もとづけ」業者とは一般的にいう信託銀行等の金融機関も例外ではありません。

 一般的には全く知られていませんが、不動産関係の金融機関には日々ブローカーが出入りしていてこういった情報を持ち出しています。ブローカーからブローカーへと情報が回ってやっと買い主である開発デベロッパー(注4)へと情報が辿り着きます。

 このように売り主側のもとづけ業者と買い主である開発デベロッパーとの間に何社ものブローカー業者がはいるわけですが、これを業界では「あんこ」(注5)といいます。実はこれが一般的な相続物件の売買取引の現実なのです。

 もちろんこういった流通系統はやむをえないことで決して悪いことではないのですが、いろいろと賑やかに成る分やっかいな問題を引き起こす原因にもなってしまいますのでできれば避けたいところです。今回の地主からの最大に依頼事項はこの1点だったわけです。

相続FPが不動産ブローカーの役割を演じる?


 つまり従来の取引の慣習にのっていかないわけですから、実際の買い主の探客活動が大変な仕事になります。相続FPは不動産屋さんでもなければもちろん不動産ブローカーでもありません。あくまでも相続FPが仕事ですから依頼人である相続人(地主)の期待を実現することが第一の仕事です。

 その実現のための提案と実践が重要です。不動産屋さんでない相続FPの実力が現実問題として試されるわけです。いよいよネットワークを生かしてデベロッパー情報を集め、買い付けの可能性のあるデベロッパーを絞り込みそれぞれにアプローチしていきます。

 このアプローチすべき開発デベロッパーの絞り込みが最大の難関です。一見景気が良さそうなデベロッパーでも内情は火の車で新規案件の上限制約が何億までとか、今年はもう腹いっぱい?で購入できないとか・・・また販売エリアの変更でその地区はもう買わないとか・・・とにかくもろもろの理由でほんとうに買えるデベロッパーと出会えることが難しいのです。

 そうこうしている内にいつのまにか「有名物件」になってしまって当初の目的である「だれにも気づかれずに・・・売る」というお話はなかったことになってしまいます。気がついたら、ブローカーが相続人のところへ夜討ち朝駆け・・・・となってしまいます。

 相続FPが不動産ブローカーの役割をしたわけですが、このように相続FPが相続物件を取り纏めたらブローカーは廃業になってしまうかもしれません。もちろん相続FPはブローカーになることが目的ではありませんが、相続FPは少なくともブローカーよりも開発や建築の専門知識もありますのでデベロッパーには正確な情報と提案ができることも事実です。

最後は遺産分割の取り纏め


相続FPの本業はあくまでも相続のトータルコンサルタントですから、土地の売却はその一連の業務のひとつにすぎません。
相続FPのメイン業務は、
(1)測量士・司法書士との連携で測量・分筆の取り纏めと相続登記
(2)税理士との連携と税理士への助言とその補助業務
(3)納税資金としての土地売却のと取り纏め
(4)遺産分割協議書のアドバイスと取り纏め
(5)農地転用の取り纏め
(6)その他相続人との取り纏め...
 といったかなり多岐にわたる内容の仕事をこなしていくことになります。特に今回の依頼人は、相続人を代表していわゆる長男の方からでしたが... それはいわば遺産分割協議の最終的な取り纏めが本来の最終的な目標になりますし、またその他の相続人にその協議書の印鑑(実印)を確実にもらうことが最大の役割といっても過言ではありません。
 つまり、ブローカーの役割が仮にあったとしてもそれは相続FPが相続案件を処理していく上でのひとつのプロセスにすぎないとということです。相続は、単なる不動産知識だけではできませんので従来の地主さん御用達の賃貸管理をしていた不動産屋さんだけでも無理があります。

 また相続が不幸にして争族になった場合には弁護士が登場してくるのですが、これは納税プロセスということでは問題があります。また、相続における納税を出入りしている税理士に頼むのもまた問題があります。相続のわかる?税理士はまだそれほど多くありません。

 税理士にもそれぞれ専門があるということもよく理解していただくことがFPの最初の仕事です。今回の事例では、実は相続人が会社経営者でしたので相続人の方から「相続問題は専門の税理士へ」ということからスタートできたことが幸運でした。
 もちろん何年も前からそのように啓蒙?していたからかもしれません。相続から納税までの10ヶ月間の時間はあっという間に過ぎていきます。ポイントはいい支援者(専門家)をうまく活用することです。まず相続を専門とする税理士ですが、測量士や司法書士も重要です。遺産分割のリーダーとして各専門家を取り纏め相続人を支援することが相続FP使命となります。


 これからの相続FPは、相続人にとって必要不可欠な存在になってくるものと言えます。この相続FPの活躍する時代にすでに突入していると私は信じています。

未来:将来の相続対策・納税資金プランの支援



ある資産家との運命的な出会い


Sさんとの出会いはちょうど1年ほど前、都内のホテルで開催されるセミナー会場でした。当時、私はFPとして定期的に相続セミナーを開催していましたが、そのセミナー当日の講演が終わってからのいわゆる個別相談会でのことでした。
 相談のクライアントは40代のインテリ風の方で、席に着くなりいきなり「財産の調査をしてほしいが費用はいくらかかるか」という突然の申し入れでした。恐る恐る相手方の財産を聞き出していくと実は大変な資産家であることがすぐに判明しました。

 Sさんとのいわば運命的な出会いの瞬間でもありました。Sさんの親は元々農業で大半が市街地農地でざっと6000坪ほどはありました。大雑把な土地評価で見積もっても27億円ほどはありそうでした。相続税は1次相続と2次相続で合わせて9億円ほどであることは私の愛用するポケットコンピューター(ポケットFP)で瞬時に計算できました。

 実はその程度のことはSさんは顧問税理士から聞かされているらしく、さらに話をよく聞いていくと税金がいくらかかるかという問題も当然ですが、どの土地をどうのように物納すべきか売却すべきかという納税プランに事前の対策を想定していきたいというのが本当の目的であることが判明しました。Mbr>
 Sさんは、以前にも有名な相続コンサルタントからも提案を受けており今まで山ほどの?提案書を受け取っていました。ただその大半がいわゆる土地有効活用等のアパートマンション建築の類のもので何らSさんの悩みを解決するものではなかったようです。

 「それで、調査費用は?」と聞かれ、その場で「はい、60万円ほどでいかでしょうか」と答えると「・・・・そうですか、検討してご連絡します」と言われセミナー会場をあとにして行かれました。この調査費用の算出は、具体的な土地の場所や詳細なことはほとんど確認しないままドンブリ勘定の金額であったことは言うまでもありません。それが、後でとんでもないことになるとはそのときは知る由もありませんでいた。

Sさんの土地調査のはじまり


それから3ヶ月ほど散発的にSさんとお会いしてお互いのコミュケーションを徐々に深めて地主さんFPとの関係擬きを築き上げて行きましたが、やはりSさんも地主さんですので、そう簡単には警戒心を解いてはくれませんでした。
 Sさんは、大学卒業後20年ほど勤務した金融機関を退職して士業の資格(税理士ではありませんが)を取り開業準備中でした。士業の傍ら自分の財産管理とその整理をすることが地主の長男としての使命と自覚をされていました。

 サラリーマン時代も夫婦で土日の休みの日は1年中畑の仕事で辛い20年であったとの苦労話をポツポツとお話されるようになったある日、「じゃあ、それでお願いします」と、最初の出会いで宿題を出されていた「土地調査業務」を受けることになりました。

 通常、土地調査はまず名寄帳をいただくことから始まるのですが、先に見積もりを出してから名寄帳をもらうことがこれほど恐ろしいこととは夢にも思いませんでした。実はこの60万円という土地調査見積もりは従来の経験から弾いた金額でしたので多少現場が違っていてもそう変わるものではないだろうと安易に考えていたのが間違いでした。

 一般的にはこのクラスのクライアントの土地は概ね一団に固まっていて現調(げんちょう・現場調査)も1日あれば終了してしまうものです。ところが、名寄せ帳を持って法務局へ行き一筆づつ公図と航空地図を照合していくととんでもない事実が次々に現れました。

 なんと現場は、半径3kmの範囲でそれぞれ14団地にも別れていたのです。通常いわゆる役調(ヤクチョウ・役場調査)は、午前中に法務局を廻り午後は市役所の建築指導課や都市計画課等の調査で午後3時には終了するのですがその日は法務局の調査で丸一日かかってしまいました。

FPの土地調査はコワークで効率アップ


Sさんの実際の土地調査は、14団地のすべてにおいて各利用区分毎に簡易測量を実施して現況面積を算出するのですが、以前は現場測量に平板と50mテープを使用して、雨の日の翌日の調査などの畑の現場ではテープがドロドロになってしまい効率が悪く苦労したのものです。

 最近、レーザー光線の距離計を入手して現場測量が飛躍的に楽になりました。それでも実際のSさんの現場測量をすべて終了するのに3日もかかりました。なぜか、大半の現場が公図とはかなりの相違があり実際の地形で作図することにより、ほとんどの土地に不整形地(図1)がでてきました。

 また、広大地評価(500m?以上の開発を必要とする道路等の公共用地を想定した評価)で実際の作図をするときの開発想定図(図2)は、各行政毎でその都市計画と開発指導要綱の具体的な指導内容がことごとく違いますから注意が必要になります。

 私は、作図にはフリーソフトの「JW-CAD for Windows」を使用しています。ソフト代もフリーソフトですから無料でネットでダウンロードができます。また、コワーク(協働)で作図を設計事務所に依頼した場合でもメールの添付ファイルで送受信ができて大変便利です。

 このCADを使用してからコワーク仲間とは現場調査で同行した後の業務打ち合わせはすべてメールで済ましています。いずれにしましても現調と役調にその作図は、自分のネットワークで最大限のコワークを生かしての作業が効率的です。

 行政調査を翌日になんとか終えて、まず現場の下見ということで、翌々日の朝9時から現場の確認に廻りました。そこでまたまた仰天、全部の現場を確認し終わった時にはすでに夕日が西の空に沈もうとしていました。今更断る訳にはいきませんし、帰りの車の中で「これは大変な仕事を受けてしまった・・・・」と諦めの面もちでその日は帰路に着きました。

現調は土地評価の原点


 土地評価上のいわゆる財産評価基本通達の実務的な現場調査と作図作業はFPの専門分野の仕事です。なぜなら、今回のこのSさんの現場もご多分に漏れずこの通達のデパートのようなものでした。
 まず、広大地評価(通達24-4)対象地が9ヶ所。42条2項道路のセットバック(通達24-6)対象地については、10ヶ所。崖地評価(通達20-4)が1ヶ所。用途地域境界の容積率相違(通達20-5)の対象地が3ヶ所。無道路地(通達20-2)が1ヶ所。都市計画道路(通達24-7)対象地が1ヶ所。生産緑地(通達40-2)が3ヶ所。貸宅地(通達25)が1ヶ所。貸家建付地(通達26)が10ヶ所。

 すべての土地が不整形地(通達20)。その他もろもろ・・・・。ここで注意が必要なのが、現場の実測をしてみますとその地形は公図とも航空地図ともかなり相違がある場合が多いのです。公図ではほぼ長方形であっても実際はかなりの不整形地でその陰地割合は簡単に10%を超してしまいます。

 もし陰地割合が30%以上であれば評価減は2%〜10%も違ってきますからこれは現場調査で一番重要な調査になります。しかし、なんと言っても圧倒的な評価の分岐点は広大地評価です。相続評価は広大地に始まって広大地に終わる?と言えるでしょう。

FPとしての資産承継対策業務


いよいよSさんの提案書も各土地の図面ができればいよいよ資産承継対策の提案をします。提案書作成のソフトはやはりエクセルの表計算で作成するのが一番ですが、もちろん市販の相続税ソフトもそれなりに利用できます。

 相続税ソフトは個人的には、NTTデーターの「相続税の達人・財産評価の達人」がお勧めです。エプソンの「相続税顧問・財産評価顧問」や「魔法陣」JDLIBEX の「財産評価・相続税申告書」等もあります。とはいいましても税理士として実際に申告業務をするわけではありませんので、FP業務としての資産承継対策の提案書作成は、やはりエクセルでクライアントのニーズに合わせてオリジナルに作成していくのがいいと思います。

 さて、肝心のSさんの最終的な財産評価ですが、当初の27億円ほどの見込みであった概算の評価は、現場調査実施による土地評価でなんと2割減の22億円程度まで減価となりました。最終的に調査報告内容について顧問税理士の監修も終わり、いよいよSさんに報告書をお届けする日がきました。

 久しぶりにお会いしたSさんは、すでに仕業看板を上げ胸に士業会のバッジをつけての登場となりました。半年ほどのお付き合いの中で自然と世間話に盛り上がったあとに、「22億円ほどになりました」と報告書を拡げながら説明を開始した途端です。

 「えっ・・・」と言って一瞬フリーズして手に持っていたコーヒーをこぼしてしまいました。想定していた金額とあまりにも違いがあったためでしょうか、驚きと喜びが隠しきれない様子でした。こうしてSさんからの最初の仕事を無事に終えて、その後Sさんからの財産のあらゆる相談を日々受けるような信頼関係をもつようにできたことは言うまでもありません。

不動産に特化した「相続FP」の登場


Sさんの事例のように広大地評価等でかなりの評価減がでることは十分にご理解できたことと思いますが、ただ、残念ながらこの広大地評価をして相続税を申告された相続人やこれからされるようとする相続人がまだまだ少数派であるということです。

 いや、5年前くらいに遡ってよく見てみるとほとんど皆無といっても過言ではありません。これは、その相続人の当初申告を担当したた税理士の無知と不動産素人であるということに他なりません。Sさんのような資産家の場合にはなんと全体の土地評価は2割以上の差が出てきます。

 もしこのような資産家の相続人の方がこうした土地の評価減をしていなかったとすれば2割の評価減で税率50%とすれば何千万円という相続税を無駄に支払った可能性も否定できません。「あなたは相続税を払い過ぎていませんか」「あなたは相続税を払い過ぎようとしていませんか」と私はFPとして敢えて唱えたいと思います。

 一般的に税理士は相続の専門家ではない場合が多いものです。相続は遺産分割そのものですから、相続財産の大半を占めるであろう不動産の専門家が実は相続の専門家であるべきです。これからは不動産に特化したFPの登場がもっともっと待たれるところです。今まさに「相続FP」の登場です。多くの相続FPの登場を期待したいと思っています。










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